劇場公開日 2013年9月28日

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「父親の愛を受け取るためにクリアすべき条件」そして父になる えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5父親の愛を受け取るためにクリアすべき条件

2024年5月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

幸せ

野々宮良多は一流大学を卒業し、大手建設会社に勤め、都心の高級マンションで妻のみどりや6歳の息子・慶多と暮らしていた。ある日、6年前にみどりが慶多を出産した出身地・群馬県の病院で赤ん坊の取り違えがあったことが発覚し、DNA検査の結果、慶多が他人の子どもだったと判明。野々宮夫妻と群馬県で小さな電器店を営む斎木夫妻が病院の仲介で会うことになるが、彼らの身なりとがさつな態度に良多は眉をひそめてしまい……(WOWOW公式サイトより)。

実はちょっと苦手な是枝監督が2013年に公開した作品。カンヌをはじめ、各賞を受賞した同氏の出世作。

ドイツの著名な心理学者・エーリッヒ・フロムは著書の中で、「子が母親の愛を受け取るために何の条件もいらないが、父親の愛を受け取るために条件をクリアする必要がある」と説き、その条件として「期待に応える」「義務を果たす」「父親に似ている」などを挙げている。福山雅治演じるエリートビジネスマン野々宮はフロムの言う条件クリアをそのまま子の慶多に求め、慶多は期待を超えてその条件をクリアしてきている。

幸か不幸か、本作のタイトル通り、子を宿した瞬間に親になれる女性の「母」と異なり、男性は意識的に「父」になろうとしなければ、「父」になれない。なぜなら、胎動も重みも痛みも心身の変化も、なにも感じることがないから。子に条件を与えることは、父自身が親になっていく過程でもある。尾野真千子や真木よう子の無条件性が特に福山雅治との対比を際立たせている。

といった感想を観客は抱くことを、是枝監督は全て計算して製作しているように感じられてしまうので少し苦手である。読後感も含め、全て監督の手のひらの上にある感覚。過度になり過ぎない演出、キャスティング、意図されていない風の意図的な余白を意味するようなカット、タイトル、宣伝等々。

もちろん各方面で高い評価を得ている通り、作品がおもしろいのは言うまでもないが、もうちょっと観客を信頼しても良いのでは?と思ってしまう(ならば、なぜ観るのかというと、観ないで批判するのは違うと思うから)。

えすけん