「穏やかで理性的な作品」少年H tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
穏やかで理性的な作品
私がまだ若いころは、夏になれば東宝の「8.15シリーズ」を筆頭に戦争映画が上映されていた。この作品を戦争映画の範疇に入れていいものか分からないが、そういう色眼鏡を抜きにしても、当時の様子を描いて予想以上によくできた映画だと思う。
現人神天皇陛下をいただく神国日本が、その御稜威により大東亜共栄圏の盟主となり、西欧列強をも打ち倒して世界を善導すべしという、今から見れば狂気の沙汰のような選民思想に多くの国民がとりつかれていた当時にあって、父親の盛夫のようなリベラルな考えの人間は少なかっただろうし、肇少年の「この戦争はなんやったんや!」の叫びも後出しじゃんけんのような気もするが(当時の人々は戦争が終わったことに安心するか、敗戦を受け入れられず呆然とする人の方が多かったと思うので)、映画的には現代の視点を盛り込むことがあってもいいと思う。
盛夫が肇に言う「この戦争はいつか終わる。その時に恥ずかしい人間になっとったらあかんよ」は、実際には少しでも戦争に批判的な人々を「非国民」「売国奴」「国賊」と罵り弾圧しておきながら、終戦後「命令だったから」「戦争だから」「みんなもやっていたから」と言い訳して、手のひらを返したように占領軍(進駐軍)にすり寄った多くの人々に向けられたものだろう。
主人公一家を演じた4人を初めとする芸達者な俳優陣を揃えて、穏やかに理性的に当時の市民生活を描きながら、権力が肥大・暴走した時の恐ろしさや、その権力に無批判に従うことの罪を訴えかけてくる。
表現の自由より秩序の維持を優先する憲法改正案や、「はだしのゲン」の閲覧制限が取り沙汰される今日においてこそ、観ておくべき作品ではないだろうか。