「自分の頭で考え行動。」少年H ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の頭で考え行動。
「終戦のエンペラー」ではイマイチだった方にお薦め。
とある少年の目線で庶民(でもないか)が描かれた作品。
これだけの情報を小学生~中学生が把握できるものか?と
やたら叩かれた原作本らしいが、軍国主義に突っ走っていく
日本を少年目線で的確に捉えている。
いつも一言余計なHは、まるで自分を観ているようである。
そういう奴は、やっぱりああやって叩かれたんだなぁ^^;
良い悪いの問題でなく、そうせざるを得なかった辛い時代。
皆がワカメになって(この表現がいい)あっちこっちへ流され
ユラユラと漂うしかなかった時代に生きていた。
戦後生まれで食う物に困る生活を経験していない自分には、
白米の貴重さはこういうところで真剣に学ぶしかないのだ。
ダイエット先行の若い世代にはもっともっとである。
妹尾河童のベストセラーで、何度もドラマ化されているので
原作をしっかり読んでいなくても(けっこう分厚い上下巻)
大凡のあらすじは知っていたのだが、やはり今回も泣けた。
主人公はもちろんHだが、やはりこの両親(特に父親)がいい。
育ちの良さは情操教育や思想に影響を与えるものだろうが、
とりわけH宅の当時の生活ぶりは一般宅とはかけ離れている。
こんな生活ぶりでは、後に大きく叩かれるだろうことが予測
できるだけに、こちらも観ていてだんだん辛くなってくるが、
スパイ容疑をかけられようとも(そもそもテイラーなんだから)
頑として意思を貫く父親像には感動を覚える。家族への配慮を
常に忘れず、息子への的確なアドバイスは明言となっていく。
戦後フヌケになった(Hにはそう見える)元軍人やら教師に加え、
自身の父親までも何も言わなくなった姿にHは不安を覚えるが、
どんな立派な人格者ですら根負けするほどの衝撃が敗戦後の
国民に与えられた消失感や空虚を見事に表現している。
隣人に白米を与え続ける母親に意見するHを、涙目で見つめる
母親の表情に涙がポロポロと零れた。クリスチャンでなくとも
マザーテレサは日本の至る所に存在していたのだと私は思う。
(一旦やったらクセになるで!には涙目で大笑い)
Hを演じた吉岡くんがとにかく素晴らしい(顔までソックリ)
自分が正しいと思うことを父親の方は声高には叫ばないが、
Hは常に真っ直ぐにモノを言う。それで何回も殴られる^^;
今ならやれDVだと言われて当然の大人から子供への暴力が
当時は歴然と行われていたし、拷問もかなりだったようだ。
(その辺りを手ぬるい描写に描き換えていないのが好印象)
それでも何度もモノを言い何度でも立ち上がるHに感動する。
あんな(暴力に頼らない)強さを子供の頃から持たせてやりたい。
自分の頭で考え行動できる人間になれ。当たり前のことだ。
厳しい母親も優しい父親も素直な妹も、皆素敵な家族だった。
的確に現実を把握するなんてことは、大人になった今でも
まったくできていないが、(私だって何回もワカメ化してる)
しかし、あらゆるフラフラやユラユラを経験したおかげで、
(これは言い訳だとしても)理解できたことがたくさんある。
バカげた社会だと思いながらもそこに身を置いている以上は、
生きていかねばならない責任が誰にでもあるのだ。
当時は中学を出たら自立する時代だったが、今じゃ40になっても
自立できない人が多いのはどうしてなんだろう。
こんな時こそHくんにビシッと一言、進言いただきたいよね。
(空襲と焼夷弾の爆発はリアルだった。ミシンって強いんだなぁ)