「戦後から震災から人々は立ち上がる…不死鳥のように」少年H 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
戦後から震災から人々は立ち上がる…不死鳥のように
戦時下を生き抜いた家族の姿を綴った、妹尾河童の自伝的小説の映画化。
水谷豊と伊藤蘭の夫婦共演でも話題。
以前別の作品でも書いたが、今戦争映画を作る意義は反戦映画である事。リアルで激しい戦場シーンや戦争の勝ち負けなど無くてもいいというのが持論だ。
戦争で最も辛い思いをしたのは、一庶民。
自由も思想も制限され、家族や愛する人も失い、何もかも奪われる。
そんな庶民の姿を通じて、戦争の愚かさを訴える。
その点、本作はしっかりとした反戦映画になっていた。
慎ましくも明るい生活を送っていた妹尾一家にも戦争の影が忍び寄る。
慕っていたうどん屋の兄ちゃんがアカの容疑で捕まる。
元旅芸人のオトコ姉ちゃんは出兵後に脱走し自ら命を絶つ。
仕立て屋の仕事で外国人の顧客を持っていた父がスパイ容疑で拷問を受ける。
学校ではイジメに遭い、教官に目を付けられる。
不当で不条理。柔軟な生き方や考えを持っていたからこそ、逆に息苦しい生活を強いられた妹尾一家の姿は痛切だ。
水谷豊が真面目な仕立て屋の父を、伊藤蘭が博愛精神溢れるクリスチャンの母を、それぞれ好演。
タイトルの“少年H”こと肇少年を演じた吉岡竜輝が達者で脱帽。
「はだしのゲン」のように少年を主人公に据えて語られる。
好奇心旺盛な肇は戦争の素朴な疑問を父に問う。父は真摯に答える。
戦争から60数年経ち、戦争を知らない若者でも、すんなり見れる仕上がり。
ただ重苦しいだけではなく、家族の絆に心温まり、所々のユーモアに笑わせられる。
戦争は終わった。
が、肇はコロッと考えを変えた周囲に何とも言えぬ思いを抱く。多くの物を失い、父は抜け殻のような状態に。
これからどう生きていくべきか、何をしていいのか。
全てがひっくり返って戸惑いながらも、新しい時代への一歩を見出す。
ラストシーン、肇が書いた不死鳥の絵。
灰の中から何度でも蘇る不死鳥は、復興へのメッセージ。
それは戦後に限らず、あの震災からの復興にも被る。
反戦と平和への祈りと復興への希望。
終戦の時期の今、夏にこそ見て、感じて欲しい映画。