「黄金に体を張れ」黄金を抱いて翔べ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
黄金に体を張れ
暗闇の金塊のようにずしりと重く硬質なサスペンススリラーだった。
『オーシャンズ11』や『ミニミニ大作戦』などの痛快洒落な強盗モノではない。
それよりも、
競馬場での強盗計画を練る男たちが内部崩壊してゆく傑作ノワール、
『現金(げんなま)に体を張れ』に匂いは近い。あんなトリッキーな構成では無いが、
自分の抱えるものに追い回され、互いに疑心暗鬼を募らせる様が似ている。
そもそも彼らはどうして金塊強奪なんて目論んだのだか。
確かに誰も彼も裕福では無いが、あれほどのタフな連中なら食いっぱぐれる事は無さそうだし、
(2人ほど常に殺されかけてるのはいるが)
何より金(かね)に対する執着が彼らからはあまり感じられない。
きっと彼らは、自分の命を全て擲(なげう)てるだけの大勝負をやってみたかったのかもしれない。
誰かの為に働くのではなく自分の為に、命を張るに値する仕事。
一生裕福に暮らせるだけの金が欲しかったのではなく、
『己の力で途轍もない事を成し遂げた』と誇れるだけの仕事が欲しかったのだと思う。
自己破滅的でどんよりした眼をしていたハルキは、
計画に参加してから生き生きと眼を輝かせ始める。
国から追われ、家族も奪われたモモは「国が絡まないから楽しいよ」と微笑む。
似た者同士の幸田と友情のような絆で結ばれてゆく様も良い。
字数の都合で泣く泣く省くが、野田と北川も人間臭くて良かった。
最も複雑だったのは“じいちゃん”。
僕には、彼が息子への罪滅ぼしに最後の仕事を引き受けたように思えた。
彼は金塊に大した興味は無かったのかも……と思わせる一方、
端金(はしたがね)を得る為に息子達を危険に晒してもいる。
彼は、そんな自分が厭だったのだろうか。
終始疲れ切ったような表情が悲しかった。
ハードなアクションや肝心の強盗シーンも見応え十分。
強盗計画に緻密さが足りないという方も多々おられるが、
ガチガチに固めた計画ほど不足の事態には素早く対応できないものだ。
なにがしかの仕事を成し遂げる人というのは、完璧と思える計画を立てつつも、
多少のアクシデントはゴリ押しで破砕するだけの勘と度胸を持つ人だと思う。
ま、それでも金庫室前でのやり取りはノンビリし過ぎだと思ったけどね。
人との距離感は近いのにどこか殺伐とした大阪の空気も映画にマッチしていた。
……ちょっと大阪の街が怖くなったのは内緒の話です……。
<2012/11/11鑑賞>