「新人俳優が人気俳優を喰う瞬間」プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命 くちなし(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)
新人俳優が人気俳優を喰う瞬間
約8年ぶりに改めて見て、この作品はもうちょっと認知されていてもいいなあと思いました。全体的に重い空気の作品ですが、最後の5分で少し救われた気持ちになれる秀逸な脚本と演出なので、「映画に浸りたい」という気分の日にオススメです。
「ブルーバレンタイン」のデレク・シアンフランス監督による、親の罪が子にも受け継がれるという血の因果を描いたクライムドラマ。この作品には、4人の主人公が登場します。1人目は、バイクのスタントマンとして各地を転々として生きるルーク。かつての恋人ロミーナが自分の子を産んで、現在の恋人と育てていることを知り、ふたりを取り戻すための金欲しさに銀行強盗に手を染めてしまいます。2人目は、そんなルークを追っていた新米警察官のエイヴリー。ルークの捜査過程であるミスから事件を起こし罪悪感を抱えるも、周囲からは評価され、複雑な気持ちを胸に警察の腐敗に立ち向かい、政治の道へ進みます。3人目と4人目は、エイヴリーの事件の15年後に出会うルークとエイヴリーの息子たち。父親たちの因縁を知らないまま親しくなりますが、あることがきっかけで真実を知ってしまいます。
今作のメインキャラクターには、いわゆる“本物の悪人”はいません。焦燥感に駆られて間違った選択をしてしまい、後悔しながら生きる若者ふたりと、生まれながらにして背負った“宿命”から逃れられない若者ふたり、2世代の若者の異なる苦悩を前後半で分けて描きます。
キャストは非常に豪華で、ルーク役をライアン・ゴズリング、エイヴリー役をブラッドリー・クーパー、ルークの息子役を当時ほぼ無名だったデイン・デハーンが演じています。当時のこのキャスティングであれば、ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパー世代のパートで8割の尺かしら……と思っていたので、ほぼ半分の尺でデハーンの世代の物語が中心となったときには驚きました。
そして、そこからのデイン・デハーンがすごかった。ライアン・ゴズリングとブラッドリー・クーパーを完全に喰ってしまい、完全なデハーン劇場を繰り広げました。その後すぐに日本で公開された「クロニクル」でも圧倒的な演技を見せていて、すごい新人を見つけてしまった……!と衝撃を受けたのをいまでも鮮明に覚えています。
そのほかにも、ルークの元恋人ロミーナ役で、いまはライアンの妻となったエバ・メンデス、ロミーナを優しく支える婚約者役でマハーシャラ・アリが出演。ライアンとエバは、当時すでに交際を開始していた(もしくは撮影現場でいい感じになっていた)と言われており、ルークとロミーナと赤ちゃんの3人で最後の記念に写真の撮る場面での2人の切ない演技は必見。アドリブだったようですが、本物の恋心があるからあんな演技ができたのか……と思わせられる、胸が締め付けられるシーンです。