「狂気と狂気の狭間で翻弄される人間たちの業」その夜の侍 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
狂気と狂気の狭間で翻弄される人間たちの業
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『南極料理人』『クヒオ大佐』『鍵泥棒のメソッド』etc.飄々とした2枚目役でお馴染みだった堺雅人は今作では一転、妻の死をいつまでも引きずる冴えない中年男の心の闇をディープを表現し、新境地を開拓。
一方、反省のカケラどころか手当たり次第に友人・知人に暴力を振るい、巻き込みながら自暴自棄に転がる山田孝之も理性を超えた闇の血生臭さを投げつけてくる。
お互いの狂気に触れた孤独が対峙した時、タイトルの名に相応しい壮絶な一騎打ちを想像し、固唾を呑んでいたが、思いがけない決着に肩透かしを喰らう。
問題点に何一つ解決していないサゲに首を傾げる後味の悪さに戸惑うが、弱味にもがく人間の醜さ、愛おしさを受け入れる世界観は、悲惨でも笑ってしまうシーンが数多い。
ラブホテルやパブ、キャッチボールetc.での何気ない会話のギクシャクしたやり取りが妙に心の琴線をくすぐる。
鬱の狂気が堺雅人、
対する山田孝之は躁の狂気。
双方の狂気に挟まれ、右往左往する一般人が常軌を逸していく過程を嘲笑う視点は、立川談志師匠の落語に通ずるイリュージョンを体感したような見応えだった。
新井浩文しかり田口トモロヲしかり谷村美月しかり
そして、綾野剛しかり
いわゆる《人間の業の肯定》ってぇいう哲学である。
雨が効果的に盛り込まれており、『らくだ』のウマさんが現世に産まれていたら、こんな残酷な騒動になってまうんやろな〜と感慨深く見守ると哀しみの涙よりも笑いが凌駕し、無性にプリンが食べたくてたまらなくなった。
バレンタインは義理チョコより義理プリンをリクエストしたい心境で、最後に短歌を一首
『拭う汗 プリンかき込み 殴り雨 向かう刃は チンケな平凡』by全竜
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