劇場公開日 2012年11月17日

その夜の侍 : インタビュー

2012年11月14日更新

堺雅人×山田孝之、初共演で演じきった濃密な“赤堀ワールド”

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平凡な人生を送っていたが、ひき逃げで最愛の妻を失い復しゅうに人生をかけるようになった中年男性と、出所後も反省はおろか血も涙もない行動を繰り返すひき逃げ犯。現代社会の孤独な人間関係の中で生まれた二つの狂気が対峙し、極限状態の中で答えを見出していく姿を描いた本作。初共演が注目された主演の堺雅人山田孝之が撮影を振り返った。(取材・文/編集部 写真/本城典子)

実力派として知られ、共に第一線で活躍する二人にまず互いの印象を聞いた。堺が山田に注目したのは「電車男」からだった。「すごい人がいるなと。作品ごとにいろんな顔を出される方だなという印象があったので、是非ご一緒したいと思っていたらこういう願ってもないチャンスが来て、非常に楽しみにしていました」と笑顔で明かす。山田も堺の演技には以前から驚かされていたといい「どこまでが嘘なんだろう、どこから本当なんだろうと思うんです」と独特の表現でたたえた。

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堺が演じるのは妻を亡くした工場経営者の中村、山田は冷酷なひき逃げ犯の木島に扮する。この二人と、それぞれを取り巻く周囲の人間たちとの描写が交互に展開されるため、堺と山田が共にスクリーンに現れるのは実はわずかなシーンのみだ。しかし、堺が「そのワンシーンが非常に濃密だったので、しばらく(共演は)いいやという感じでした(笑)。時間がたったらまたやりたいなとは思いますが」と言うほど、熱のこもった撮影となった。山田も「短かったですが、この作品でこの役で一緒にやれたのが本当によかった」と手ごたえは十分のようだ。

劇団「THE SHAMPOO HAT」全作品の作・演出・出演を担当する演劇界の鬼才、赤堀雅秋の戯曲を赤堀自身がメガホンをとり映画化した。中村と木島が生きる世界を軸に、善悪の区別なしに現代社会のどこにでも存在しそうな人間と人間の関係性が濃密に描かれる。

「それぞれの人間模様、いろんな感情や状況、整理されない気持ちというのが描かれた作品。(人と人は)その関係性の中でしか、語ることができないし、中村も別の人が相手だったら違う顔を見せたかもしれない。この人はこういう人だという説明があるのではなくて、その時の状況や関係によって甘えもするし、暴力的にも常識的にもなるという、絶対的でなく相対的なこと。そういう関係をむき出しにして見せられるのが赤堀さんの魅力」と堺は語る。

山田は「木島を演じてみて、本当の自分なんてものは、人間にはないなと思いました。木島は結局何なのか僕にはわからないですし、全く理解ができない。でも、僕はその時それがすべて正しいと思って演じてましたし、それが人間なんだなと。常に人って変化しているものですし」と役柄を通して感じた思いを述べる。そして、「“人と人とは”ということが、ぐさっと来る。この作品を見て、『うーん?』とピンとこないような人がいたら、大丈夫かな? って思います」と断言した。

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赤堀のつくり上げる独特な世界観を映像で表現するために、今回フィルムでの撮影が敢行された。堺は「もちろん仕事なんですけど、大の大人たちが寝る暇も惜しんで遊び続けるっていう側面もあって、スタッフのみなさんのドキドキ具合がフィルム撮影でぐんと上がった気がします」と現場の様子を振り返る。山田からは「フィルムだからといって特別な緊張感はありませんでした。何で撮られても、生でやっていようが緊張感というのは常にあるので、そこに差はないですね」と常に演技に真摯(しんし)な山田らしいコメントが返ってきた。

「カオスですね。絵具で言ったらすべてのタッチが残っていて、塗りむらも含めてどこから見てもふーんと圧倒される絵画のよう」と堺が形容する赤堀ワールド。フィルムで撮影された映像の質感が、孤独や葛藤から生まれた二人の心の闇を絶妙に表現している。ぜひスクリーンで鑑賞してほしい一作だ。

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