「全く好きなタイプの映画ではないのに」ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日 alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
全く好きなタイプの映画ではないのに
感動映画でも、観ていて楽しい映画でもない。
でも、映像美だけで認められた内容スカスカ映画でもない。
自分はあまりヒューマンドラマやロマンス映画、家族愛がテーマですみたいな、「泣ける系」映画は好きではなく、これも壮大な自然がテーマの泣ける系か、自然ってスゲー系の映像美頼りの映画なのかなーと思い、ずっと観賞していませんでした。
家族が見たがっていたものの、その後忘れていて、この度図書館で発見したため初めて観賞しました。
いやぁ、思ってたのと全然違いました。若干ダラダラして退屈な感じは想定内だったので、あまり気になりませんでしたが、観たいと言っていた家族はやや退屈だったようです。
特に序盤の30分程は、インタビュアーに漂流した時の話が聞きたいと言われ過去を話すシーンです。
殆ど主人公の生い立ち少しとキリスト教、ヒンドゥー教、イスラム教の3宗教についての説明とそれに対しての主人公の語りで、宗教に特に関心の薄い日本人にとってはかなり退屈かもしれません。全部理解しようとする必要はなく、「(上の3宗教だけに限らず)いくつもの宗教を1人の人が真剣に学ぼうとするとどうなるのか?」という視点でぼんやり見ていれば大丈夫だと思います。
その後漸くインドからカナダへ、日本の大きな船に動物達を乗せ、出発です。皆さんが日本のCMを見て期待したであろう「トラと少年の漂流」シーンは、実は全体約2時間のうち半分もありません。
が、この漂流の間は全てファンタジックな出来で、映像の美しさを存分に楽しめます。
自分はVFXに結構違和感を持ってしまう方で、美しさを感じる一方「何か変だな~」とちょいちょい我に返ってしまいましたが、家族はこの点トラの動き等も不自然に感じることなく、満足だったようです。
光るクラゲや夜光虫、クジラ、トビウオの群れ…等々、大自然をただ撮影するより美しく表現しようとしているのを感じました。
さて、終盤ですが、旅(漂流)を終えた主人公が病院に担ぎ込まれ、唯一の生存者として(保険の関係で事故が船の責任か否かを知るため)日本から話を聞きたいと、2人の日本人がやってきます。
そこで、自分が体験した話を聞かせますが、夢のような話です。当然信じてもらえません。というか、「事故の原因が知りたいから事故の際の話を聞かせて欲しい」と言っているのに、主人公は「漂流して自分が如何にして生き延びたか」に重点を置いて話しているので、「いやいや、そこが知りたいんじゃなくてね」って話です。
そして、「もっと聞いた人間が信じられるような、『現実の』話をしてほしい」と言われます…
それは、一人自力で生き延びた子供には聞かない方が良いことでしょう。
ともかく、最後はちょっとした恐怖と物悲しさを抱え、映画は終わります。
恐らくこれを観て、シャマラン監督の『シックス・センス』を薄らと思い出した方もいたのではないでしょうか。
個人的には、思っていたより退屈ではありませんでした。
単調であり、かつ自分で掘り下げようと思えばいくつもの側面を持つ映画だと思います。
少なくとも、自分はここまで色々なテーマを持ちながら、ここまで纏まりのある映画を初めて観た気がします。そして、どのテーマに気付き、またどのテーマに全く気付かなくても、映画としては成り立っています。
最悪、映像だけを楽しむにしても充分な出来です。
ミステリ映画のように考える必要は全くないと思います。「難しいテーマの映画なんだ」「内容を理解しなきゃ」と構えて観るのは全くオススメしません。それをすると、逆に楽しく観られないのではないでしょうか。
観ていて自然と何かしらに気付くように作られています。
動物がメタファーだと気付いた時。
動物達に隠された意味を理解した時。
そして、トラの最後の行動の意味を理解した時。
どの瞬間も、ハッとさせられます。
個人的には、最後に彼が猫を飼っていることがわかるシーンが好きです。
「これがハッピーエンドかどうかは君が決めること」。
トラは永久に去ったのに、猫を飼うことにしたんですね。
自分には少し物悲しい話に感じられましたが、恐らくこれも、感じ方は人それぞれ違うのでしょう。
その人の必要な時に必要なことに気付き、その人の人生によって、同じテーマなのに違う受け止め方になるように作られている。
監督の力不足で「受け取り方は観客に任せますよ」とぶん投げてきたと感じさせる終わりではなく、良い意味で、どんな風にも取れる映画だと思います。
次は大画面で、Blu-rayや4Kなど美しい画質で観たいものです。