劇場公開日 2013年5月31日

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「【優美柔なるトニー・レオン版イップ・マン。ウォン・カーワァイ監督の持ち味である儚き美に溢れたカンフー映画であり、梅林茂による哀愁漂う儚くも美しき劇伴も魅力なる作品である。】」グランド・マスター NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 【優美柔なるトニー・レオン版イップ・マン。ウォン・カーワァイ監督の持ち味である儚き美に溢れたカンフー映画であり、梅林茂による哀愁漂う儚くも美しき劇伴も魅力なる作品である。】

2025年8月16日
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鑑賞方法:VOD

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■1936年。中国、佛山。
 北の八卦掌の宗師(グランド・マスター)であるゴン・パオセンは引退を決意する。
 南北統一の使命を託す後継者に南の詠春拳の宗師イップ・マン(トニー・レオン)を選んだ彼は、一番弟子であったマーサン(マックス・チャン)の嫉妬と恨みを買ってしまうが、パオセンがイップ・マンを後継者とした訳は語られなかった。
 やがてパオセンの娘ゴン・ルオメイ(チャン・ツィイー)も巻き込み、後継者争い戦いの火ぶたが切られる。

◆感想

・ご存じの通り、詠春拳は女性が編み出した流儀であり、相手の力を受け流しながら直線的な技を出して行く優美な拳法である。
 だが、その流儀は様々な形に変容して行った。
 一番有名な継承者はイップ・マンと彼の弟子であったブルース・リーであるが、今作でも描かれている通り日本に侵略された中国を後にしたイップ・マンが香港で広め、さらに多くの流派が生まれて行った。
 今作で、イップ・マンが”流派はない。”と言ったのはそれが背景ではないか、と思う。

・今作を、カンフーアクション映画として観ると、物足りなさを感じる方もいらっしゃるかと思うが、私はイップ・マンを演じたトニー・レオンの摺り足をしながら相手の力を受け流しつつ技を出す詠春拳のスタイルや、チャン・ツィイーが演じたルオメイの軽やかで優美なカンフースタイルを堪能した。

・イップ・マンと言えば、ドニー・イェンが演じたシリーズが有名であり、カンフー映画としてはドニー・イェン版イップ・マンの方が面白いと思う。
 が、今作はカンフー映画というよりは、京劇のような雰囲気が漂っているように感じたのである。

・又、驚いたのは梅林茂が、故森田芳光監督の美しき隠れた名品「それから」のメインテーマで使用した哀愁を帯びた劇伴が、随所で使用されている事である。
 これは、明らかにウォン・カーワァイ監督が、「それから」を観て使用したと思われる。(NOBU推測である。)

■そして、マーサンが、64手を使うルオメイに、雪舞う駅のプラットフォームで敗れた時に言う言葉、”私は、退く事を学んでいなかった・・。”という言葉が、ゴン・パオセンがマーサンではなく、イップ・マンを後継者として選んだ事を如実に伝えるのである。

<今作は、1936年から1960年にかけてのイップ・マンたちの生き様を、ウォン・カーワァイ監督の持ち味である儚き美に溢れたカンフー映画であり、梅林茂による哀愁の劇伴も魅力なる作品なのである。>

NOBU
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