「勝つのはワタシ。」グランド・マスター ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
勝つのはワタシ。
中国拳法にはまるで疎く、葉問(イップ・マン)という名前は
何度か聞いたことあれど、南の詠春拳の宗師と言われても
ちんぷんかんぷん…。かのブルース・リーの師匠で、伝説の
武術家といわれているその人を演じるのが何とT・レオン!!
もちろん観ますよ。エエ!観るなら今でしょ!(多用しすぎ)
…とばかりに観に行ったが、いやはやとても勉強になった。。
監督があのW・カーウァイとくれば、だいたいの想像はつく。
おそらくは美しい映像美で迸る汗すら涙の一滴のように描き、
独特の表現方法でストップモーションも多用する…とか色々。
本来は(かなりの年数を訓練にあてたそうだが)T・レオンも、
Z・ツィイーもアクションスターじゃないから、拳法の実力を
生々しく発揮するようなものではないんだろうと思っていた。
冒頭から、何だこの不思議な映像は…というスローな再生が
延々と続き、またこんな雨の中で…!と思うほど観辛い環境。
いやしかし、こんな画面を描いて魅せるのも監督ならでは。
私はつまらない(本家本元を知らないからかもしれないけど)
というよりも、むしろずっと最後まで表現に魅入ってしまった。
それぞれが実在したグランド・マスターということで、
誰が後継者の座に座るか、っていう選手権大会決勝戦みたい。
これが武術メインでしっかりと描かれれば、またそれなりの
見せ場があったのだろうが、今作はそこに留まらない。
彼らの半生、戦前・戦中・戦後をどう生き抜いて、どう武術を
極めたか、彼らの家族や日本軍の凄惨な攻撃も描かれている。
もし彼らの生きた時代が、また違う世紀だったなら、彼らの
その後の人生も、また違うものになったのかもしれない。
けれど、自らの流派を広めるために、さらに精進を重ねては、
北から南までを統一しようとする強固な姿勢を皆が崩さない。
それぞれが自分の流派に誇りを持ち、これぞ一流だと信じて
日々邁進する姿にはさすがに感動してしまう。
一応、主演は葉問になるのだろうが、いやいや総てのマスター
の生き様は、誰を選んでも捨て難いものだ。
その最たるは(やはり女性ということもあって)ツィイー演じる
宮若梅(ゴン・ルオメイ)なのだが、彼女の生き様を観るだけで
すでにお腹一杯になる、これが女性でなかったら?と思わずに
いられない。生涯独身を通し子供も産まず弟子もとらなかった
彼女の、後継者は私だ、という八卦掌奥義六十四手を使っての
葉問との対決と勝利は美しさに加え見事としか言いようがない。
更に父に謀反を企てた馬三(マーサン)への復讐対決も凄まじい。
彼女の「勝つのは私よ」に彩られたその立ち居振る舞いといい、
醒めた表情といい、台詞といい、動きといい、アナタは何者!?
と思わせるほどの存在感がハンパないのだ。
彼女が病に倒れなければ…リーはこっちの弟子だったりして^^;
引き換え、静の動きの葉問も闘いとなればかなりの腕を見せる。
映像が美しいせいで、彼の哀しみがそこかしこに垣間見える。
強いということは相手を制することにはなるが、制したところで
果たせるものとは何なのだろう。自己満足だろうか。
師である宝森が葉問に掲げた思想での勝負、そして最後に葉問が
スクリーンから(ややおちゃらけた表情で)語る南北流派への思い。
私も心からその通りだと思った。この人、かなりの人格者ね。
イップ・マンシリーズ…といえばD・イェン主演の作品が大ヒット
したらしくて(私もこの人大好き。でもその作品は観てないのだ)
シリーズ第3弾も製作されているとか…。
今作で興味が湧いたので、機会があったらそっちも観てみようかな。
(彼の拳法をリーが海外に広めたわけか。何か凄いなぁ、勉強になる)