劇場公開日 2012年8月11日

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「かすみ、ジョゼと虎と魚たち、観てるってよ」桐島、部活やめるってよ 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5かすみ、ジョゼと虎と魚たち、観てるってよ

2020年5月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

まずは、原作から。

『ひかりが振り返って、俺を照らした。』

宏樹(東出)が映画部の二人に8ミリビデオのキャップを渡そうと声を掛け、前田が振り返った場面の宏樹の表現です。

これについて監督は、原作本(文庫)の解説で、次のようなことを書いています。

「この一行ですっかり持って行かれたが、はたして映画でその〝ひかりそのもの〟を描くことができるだろうか。」

いやいや、監督、よくぞ、プレッシャーに負けず、こんなにも鮮やかに仕上げてくれました。心から敬意を表します。

原作は、かすみの中学時代(前田との映画を媒介とした交流あり)のほか、宏樹(スポーツ万能、一応野球部)、風助(今までは桐島の控え)、亜夜(吹奏楽部部長)前田(映画部部長)実果(原作では文武に秀でた亡き姉に複雑な劣等感を抱える)、それぞれの物語がそれぞれの視点で描かれ、独立した章となっています。

風助は、桐島と同じポジションのリベロ(ひとりだけ色や柄の違うユニフォームを着てる人)。いつも控えでベンチにいるが、キャプテンの桐島からどうだった?とアドバイスを求められるほど、よく試合を見ている。

実は、風助も人並み以上のいい選手。
『桐島は選手を、コートを誰よりも見られる立場でプレイしていたけれど(中略)、その桐島を含めてチームを見ることができたのは俺だった』
風助はそんな自負を持ちながらも、いつも自分の先を行く桐島を追いかけていた。桐島がいなくなったことは、前途への道標をなくした不安と、視界が開けたような清々しさが入り混ざる複雑な気持ちをもたらしたのだった。

ここからは映画の話。

原作では、実果と風助の接点は無いが、映画では、
その風助を誰よりも理解し共感する、ある種の同志として、実果の存在がとても重要な役割を果たす。
梨紗、沙奈、かすみ、実果の4人がベンチに揃った場面。
彼氏であるはずの桐島との連絡が取れずイラついてる梨紗と沙奈(松岡茉優さんのビッチぶりがこれまた素晴らしい❗️)の会話を聞きながら、実果が笑顔とも言い切れない本当に微かな一秒程度の薄笑いを浮かべ、沙奈たちとの価値観とは決して相入れないことを鮮やかに表現してみせる。そして、かすみとの関係性の中で垣間見せる内面の葛藤。
イケテル〝上位〟グループに所属していることの優位性だけに依存して、実は何者でもない沙奈や梨紗。
ダサくてカッコ悪くても、桐島という幻影に追いつこうともがいている風助に、亡き姉という幻影を追いかける自分を投影させる実果。

〝上位〟グループに気を遣いながらも、自分と向き合い続ける実果とそれを見守るかすみ。
上位グループの頂点にいるはずなのに、説明できない居心地の悪さを感じ続ける宏樹。
その宏樹に、ひかりの在りかを覗かせた前田たち映画部。

受け止め、感じるだけでいい青春映画の傑作です。

【付録】
原作小説に出て来る映画。

百万円と苦虫女
TOKYO
メゾン・ド・ヒミコ
めがね
打ち上げ花火
花とアリス
リリィ・シュシュのすべて
きょうのできごと
チルソクの夏
ニライカナイからの手紙

※ジョゼと虎と魚たち

→この映画はかすみが一番好きな映画(14歳時点)で5回も出てきます。もちろん、前田も好きで、中学時代放送部で、昼休みに紹介してました。

前田は蒼井優さんが、副部長は犬童一心監督と岩井俊二監督と真木よう子さんが好きなのです。

グレシャムの法則
CBさんのコメント
2022年12月31日

> 来年は、朝井リョウさん原作の『正欲』『少女は卒業しない』が公開されるので今から楽しみです。個人的には河合優実さんの出る後者のほうが期待大
をを。貴重な情報をありがとうございます。たしかにここ数年目立っている河合さん(優美)との組み合わせの後者は、大注目ですね

CB
CBさんのコメント
2022年12月30日

ぐわ、なんと楽しいこのレビュー!最高じゃないですか!!
そうそう、そうなんですよね、と何回頷いだことか。原作までトレースしてくれて感謝感激!
レビューにありますが、俺も、監督がよくこの原作の雰囲気を纏ったまま映画にしたなあ、という点にとても感心しました。その点だけでも万感です。
俺も原作読んだ時、風助と実果、そして宏樹の話として読んだ記憶があります。

ところで、今回本作を観に行く前の俺は「をを、若き橋本さん(愛)、松岡さん(茉優)を観られるのか!」と勇んで出かけたことを思い出しました。そしてもちろん橋本さんは把握してたけど松岡さんは…そうか、紗奈が松岡さんだったのか!? さすが松岡さん。いつも役に入り切っているから…ううむ、あらためて感心しました。彼女は、凄い。(ホントに凄いのは、彼女なのか、それとも俺の気づかなさなのか…(笑))

CB
近大さんのコメント
2020年5月22日

『ちはやふる』で松岡茉優をしっかり認識して、他に何出てるのか調べてみたら、本作でのあのムカつく女性徒と知り、非常に印象残ってたので、改めてその実力を再認識しました(^^)

近大