SHAME シェイム : 映画評論・批評
2012年2月28日更新
2012年3月10日よりシネクイント、シネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
今度は精神の荒廃を映してみせたマックイーン&ファスベンダーの第2作
青みをおびた画面に映し出されるマイケル・ファスベンダーは体温が低く、何に対しても熱のない男に見える。彼はニューヨークで働くやり手のサラリーマンである。高級マンションに住み、ハンサムで女性からも人気なプレイボーイ……というには少々セックスにとりつかれている。家に帰るとパソコンの電源を入れ、インターネットでポルノを漁る。バーで女性に声をかけ、帰り道に道端でセックスする。部屋に招くのは売春婦とセックスフレンドだけ。そんな生活を、彼は淡々と続けている。だが、その日常に変化が訪れる。恋人と別れた妹が転がりこんできたのだ。感情をむきだす妹と衝突する中で、彼の中で眠っていた過去が蠢きはじめる……。
ファスベンダーが演じているのはセックスにとらわれた男だ。彼は同時に誰とも感情的つながりをもてない男である。何人とセックスをしようとも、相手のことを決して知ろうとしない。関係はつねに行きずりのままだ。セックスは快楽ですらない。「アメリカン・サイコ」でクリスチャン・ベールが演じていた男の20年後と言えばいいだろうか。その荒涼たる心象風景を、これが監督2作目になるスティーブ・マックイーンは堂々たる長回しで描きだす。途切れないカットの中で、ファスベンダーと一緒に観客も戸惑い、憔悴してゆく。カンヌ映画祭でカメラ・ドールを得たデビュー作「Hunger」で、ファスベンダーの痩せ衰えていく肉体をとらえたマックイーンは、今度は精神の荒廃を映してみせたのだ。
(柳下毅一郎)