「愚かだから、いとおしい」ふがいない僕は空を見た マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
愚かだから、いとおしい
不倫相手の高校生、斉藤から別れを告げられ、あんずは「やだ、やだ」と、引き留めようとする。自分の気持ちを相手に押し付けようとするだけの言葉。相手の立場や気持ちは視野に入っていない。
いじめや、義理の母親からの理不尽にぶつかると、コスプレの世界へ逃げ込む。
逆に、斉藤もあんずからアメリカに行くと告げられ「やだ、やだ」と言う。斉藤とあんず、似たものどうしだ。
あんずは、もちろんアメリカなどに行かない。すでに、マザコンの旦那と別れ、だから、不倫の事実をネットで拡散されている。
あんずは斉藤との別れを決意する。現実に向き合い、自分で生き方を選び取り、そして斉藤のことを思いやる。だから、斉藤には本当のことを言わない。そして、一人旅立つ。
認知症の祖母をもつ福田は、斉藤の母親からもらう弁当を捨てる。自分の境遇と抗いながらも、プライドは高い。福田からすれば、斉藤とつるみながらも、経済的にも家庭的にも恵まれている(あるいは女の子からもてる)斉藤に、複雑な感情を抱いている。
だから、トラブルで引きこもる斉藤に優しい言葉をかけながらも、斉藤の不倫写真をばらまくという矛盾した行動をとる。自分だけが不幸だと思い込むんじゃねえ、自分が選んでやったことじゃねえか。俺は、選び取らずに不幸の渦中に生まれてきて、抜け出せねえんだ。彼が、もやもやと感じている気持ちを、言葉であらわすなら、そんな感じだろうか。
でも、クラスの仲間が、斉藤の苦境を喜ぶと、ブチ切れつかみかかる。上から見下して、人の不幸を喜ぶ奴は赦せないんだ。
暗闇の中でもがく福田も、バイト先の大学生から受けた導きに、光を見出す。だから勉強を始める。そして、家の外に出された少女に、優しい思いとチロルチョコをほどこす。自分が大学生から受けたほどこしが、彼をやさしくしたのかもしれない。
福田のバイト仲間、純子は、どうやら斉藤が好きらしい。福田から指摘されると「はぁ」と攻撃的な返事。斉藤に告白したクラスメイト七菜に、不倫動画の話を伝えたのは、可愛い七菜へのどす黒い気持ちからか。そして、写真をまき散らしたのは斉藤への屈折した思いからか。
そんな身勝手に見える純子は、福田の祖母がまき散らした水を掃除する。アパートの他の住人たちは非難するだけの中、無償のやさしさだ。
斉藤の母親は、神社で手を合わせた時、息子から何を願ったのか聞かれ「生まれてくるすべての子どもの幸せ」と答える。人類愛といえば、コッケイだろうか。性と生をめぐる、愚かで、でも純粋で真摯な営み。抽象的なテーマを、みごとに具象化した映画。タナダユキ監督に感服。