キリング・フィールズ 失踪地帯 : 映画評論・批評
2012年4月3日更新
2012年4月14日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
クロエ・モレッツの早熟をあざやかに刻み込んだダークスリラー
へい、乗っていかない? 道を尋ねてきた、見るからに危険なタトゥー野郎が車から声をかける。逆方向にも関わらず、だ。この時のアン(クロエ・モレッツ)の中指の立て方に惚れ惚れだ。最初から彼女は車にも男にもシカト状態だが、この男の誘いに歩きながら横向きに中指を立てサクッと流す。これをアップでフォローしたキャメラもすばやい。
「キリング・フィールズ 失踪地帯」は、撮影時13歳のクロエ嬢のビビッドな肉体(特に車の助手席で組まれ投げ出された太腿がまぶしい)、そして、これが肝心だが、どのような映画にもしたたかに対応する早熟を「ヒューゴの不思議な発明」以上にあざやかに刻み込んだ作品である。彼女を追うだけでも飽きない。
クロエが踏み込んだ今回の映画世界は、これまでのキャリアでもっとも自らの身体に危険が及ぶアメリカのリアルなダーク・ゾーンそのものである。少女が次々失踪し死体で発見されたテキサス州の事件をもとにしているからだ。「キック・アス」、「モールス」のような虚構を楽しむわけにはいかない。まして、プロデューサーが徹底したリサーチでならした巨匠マイケル・マンであり、監督はマンの娘、アミ・カナーン・マンだ。徹底した作品理解、状況研究をクロエに課したことは想像するまでもない。二人の刑事の描写も含めアミ・カナーンは容赦なく、巧い。
少女たちの縄跳び言葉が不吉だ。「油断するとゴブリン(鬼)に捕まっちゃうよ」。クロエの母親は娼婦であり、男がいる間は家にいられない。暗い危険地帯をさまようしかないのだ。そしてついに……。
(滝本誠)