「ある家族の、悲痛に満ちた崩壊劇」別離(2011) キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
ある家族の、悲痛に満ちた崩壊劇
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「別離」は映画史上最も悲しい映画だと言っても過言ではない。ある事件を境に2つの家族が争い、そしてその家族事態も崩壊の一途をたどる。徹底したリアリティがこの映画の要だろう。
ナデルとシミンは典型的な中流家庭である。大きいアパートメントに住み、車は外車だ。娘を女子中学校(それもおそらく私立だろう)にやり、一見すると幸せな家庭だ。だが夫婦の間には映画が始まった時点で決定的な亀裂が生まれていて、それは深くなるばかりだ。その間で引き裂かれる娘の悲しみは計り知れないものだろう。
それに対し、ラジエーとその夫ホッジャトは日々を生きるのに精一杯だ。無職のホッジャトに代わり、遠方からヘルパーの仕事をするラジエー。特にラジエーは信仰心が厚く、これが後々重要なポイントとなってくる。ただ普段から明確な信仰を持ち合わせていない私にはある意味で最も共感できない箇所であった。
彼らの間に共通するのは嘘をつく、ということだ。誰しもが家族のために嘘をつき、それがさらに亀裂を深める。彼らの娘達でさえも嘘をつく。あまりにも悲しくやるせない状況だ。ナデルの娘テルメーが嘘の証言をした後に涙を流すのはその最たるものだろう。
この映画では最終的な事件の結末は描かれていない。だがかすかにでもあった家族の絆は今やどこにもない。あまりにもリアルで無残なエンディングであった。
(2012年5月20日鑑賞)
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