「脚本が伏線を処理し切れていなくても、卓越した演出力で納得させられてしまう作品。」裏切りのサーカス 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
脚本が伏線を処理し切れていなくても、卓越した演出力で納得させられてしまう作品。
冒頭のコントール(スパイチームのリーダー)の極秘命令を受けた工作員ジムが、ハンガリーに潜入し、幹部の誰が「もぐら」(ソ連の二重スパイ)であるのか情報を持っている重要人物を確保するシーンから、素晴らしい緊迫感へ、一気にスパイの世界に引き込まれました。
けれども、この失敗でコントールは退任後、病院で入院中に暗殺。コントロールの右腕だったスマイリーも、もぐらの存在すら知らされず、道連れで退任させられて、以降の展開は、枝筋を並べすぎて、伏線を収束しきれずにラストにもつれ込んでしまいます。特にラストの展開は、余りに急で、突然「もぐら」が誰か急浮上するので、あれれと混乱しました。上映会場で人物関係図などが配られると思いますので、入念に登場人物とその役柄について充分予習しておかれるとより楽しめると思います。
こう書くと駄作のように読み取れるでしょうけれどトーマス監督は、驚異の演出力を発揮して、脚本に難のあるストーリーを最後までミステリックに仕上げました。
ちょっとストーリーは消化不良なりながらも、描かれていく映像の雰囲気で最後まで何が起こるのかついつい画面に釘付けにさせる演出力はただ者ではありません。予告編の出来が秀逸なので、過剰な期待感で上映に臨んでしまうのが本作の問題。そこそこの期待で、意外さを感じる方が楽しめると思います。
原作ものは、2時間の尺にまとめるのがとても困難なことです。本作では、なるべく原作に忠実であろうとエピソードを生真面目に拾っていったのが徒となりました。
だいたい肝心なもぐら候補につけられた“ソルジャー”などコードネームの命名理由は解説されず。スマイリーの妻アンが、同僚のビルに寝取られる不倫関係も中途半端でなくともいいぐらい。スマイリーのもぐら狩りチームで、情報係となるピーターは、自国の情報機関から首になるのを覚悟で、書庫から様々な情報を盗み出すものの、もぐら捜査に
活かされているところが描かれていません。
さらに死亡したことにされた工作員ジムのその後の消息の描かれ方も説明不十分でした。
トドメは、「二度目、真実が見える」と言うコピー。人を期待させといて、あの終わり方は語るほどのような複雑さは、全く感じなかったのです。もう少し「もぐら」を推定するまでのスマイリーの推理の過程を見せて欲しかったです。
他にも突っ込みどころは満載ですが、それでも凡作とは言いがたいスパイ映画として卓越した映像を楽しませてくれます。寡黙なゲイリー・オールドマンの存在感はたっぷり。007とはちがって、一見、目立たないしスパイらしくないのに、正念場では凄腕を見せるメリハリのある演技でした。往年の必殺シリーズ中村主水のように。
先ずは予告編だけ見て、一度目は欺かれましょう(^^ゞ
果たして、「二度目、真実が見える」となるのかどうか!