劇場公開日 2012年4月21日

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裏切りのサーカス : 映画評論・批評

2012年4月17日更新

2012年4月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

ありきたりのスリルやアクションを潔く締め出した迫真のスパイ映画

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英国情報局で自ら諜報活動に従事したジョン・ル・カレのスパイ小説が原作。ならば、ボンド映画のように華麗なハラハラドキドキを差し出したりはしないはず――と、まあ予測はしていたが、この鈍(にび)色に沈んだ世界の感触はどうだろう。あるいはジョン・ハートゲイリー・オールドマンコリン・ファースと二枚目で売った過去がなくはない俳優たちの疲弊の色がまったりと染みついた肌、たるみに隈に深い皺。監督トーマス・アルフレッドソンの前作「ぼくのエリ 200歳の少女」の吸血鬼仲間にこそふさわしそうな彼らの顔の生気のなさはただごとでない。けれどもまさにそのくすんだ世界と人のたたずまいが、ありきたりのスリルもサスペンスもアクションも潔く締め出した冷戦後期70年代の諜報員映画に迫真の質を引き寄せていく。

中枢部(サーカス)にいるという二重スパイを追求する遅々とした情報収集作業。幾重にも分かれたプロットの末端から見えない敵をあぶりだす過程に空しく降り積もる徒労感。停滞の霧はしかし、いきなりいっきに晴れて、そこにくっきりと、敵とねじれた愛の物語とが浮かぶ。ラ・メールの調べに伴われ回想のパーティ・シーンが裏切りとロマンスの真相を透かし見せる。その素早さ。緩急の落差。やがて恋の形見に涙型の銃痕を撃ち抜いて傍らに追われたひとりがひそやかな愛にけじめをつける時、抑制を貫くかにみえた映像が細部(煙草の箱の独特の開け方、筒型の包装が懐かしいミント、扉にはさんだ木っ端……)を繁らせ、きめるところはズバリときめて、くすんだ世界を支えてきたのだとようやく気づくことになる。そうしてそんな地味派手の美学がボンドとは一味違う地道なスパイの映画には、いかにもふさわしく思えてくるのだ。

川口敦子

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