「傑作」アーティスト こまめぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作
まず言うなら、ストーリーにはなんのひねりもどんでん返しも無い。
数分ごとに危機に見舞われたりするアクションを観慣れてると
この映画は物足りないと思う。
さらに古い映画、それも無声映画をある程度観たこと無いと
何がそんなに授賞理由になるのかピンとこない気はする。
それでも私はこの映画が大好きだ。
原作の小説を先に読んで、映画化されたものを鑑賞すると納得いかないように
何かが無いということは
それだけ人の想像力を駆使して補ってる部分が多い。
無声映画も同じだ。
声が聞けないスターの声を、観客は自分の頭の中で補完して観ている。
自分の想像とかけ離れてると勝手にがっかりしたりするものだ。
この映画は無声映画からトーキーに移る時代で、
新しくトーキーから出演するものにはなんの障害でもないが、
それまで無声で地位を築いてきたものには
その変化は恐怖でさえあったろう。
主役のジョージは最初そこまで深く考えてはいなかったとはいえ、
最終的には落とし穴にはまってしまった。
幸いにもどうにか浮上するにしろ
観てるほうも、いったいいつ声が出るのかとハラハラして待つことしきり。
やっと聴けた第一声が、台詞が、どんなものだろう?と。
つまりこの映画を観ている私たちも、当時の観客が、
あのスターはどんな声なんだ?どんなふうに台詞を言うの?と
ワクワクして待つのと同じ状況に置かれていたのです。
そのことに気づいて鳥肌モノでした。
また、この映画は映画マニアならばしびれるような
こまか~いオマージュにあふれている。
さらに言葉が無くても、
例えばいつでも車がピカピカなことからクリフトの勤勉さがわかるし
視線で恋心がわかるし
増えて行くネックレスで妻の我儘さがわかったり。
無声でも雄弁な映画なのです。
長すぎるレビューは読むひともめんどくさいだろうと
ある程度短くしようと心がけてる自分でも
この映画の良さを少しでも布教したい!と熱く長く書いてしまった。
それだけ映画愛を呼び起こす作品でした。
観終わって、作ってくれてありがとうと思える映画は数少ない!