「子供に対する両親の愛情が伝わらない、その理由も理解出来ない」少年は残酷な弓を射る Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
子供に対する両親の愛情が伝わらない、その理由も理解出来ない
この映画が実話を基に制作された映画なのか、全くのフィクションなのかは知らないが、アメリカでは、誠に痛ましい残念な事件であるけれども、現実に昨年の年末のクリスマスを直前に控えた或る日、アメリカでは最も楽しい筈の冬休みシーズンの始まりであるその直前に、コネチカット州にある小学校で、18人の子供を含めた26名の死亡者を出す銃の乱射事件が発生した。
この事件も何故起こったのか、未だその原因は謎であるが、この現実の事件同様にこの映画で描かれる物語も同様に理解不能だ。「少年は残酷な弓を射る」と言う映画では他者を無差別に死亡させると言う異常事態を起こしたケヴィン少年とその家族の姿を浮き彫りに描き出そうと試みていた物語の筈なのだが、しかし、私には、この映画を観る限りに於いては、何故このケヴィンが無差別殺人犯人となってしまったのかを描いているようでいても、その実全くケヴィン少年が何故、ここまで屈折してしまったのか、描き切れていないように思えるのだった。あくまでも、少年のその行動は、先天的な性格異常に起因する事であり、この事件は何らかの確実な原因があって、その原因により少年はこの大事件を起こしてしまったと言う見方では描かれていない。
生れた時から、母親とは相性が合わないと言う何とも、抽象的な描き方で、今一つハッキリと気持ちが伝わってこない作品で、その異常な性格が、彼の成長と共に深刻化し、結局のところ、反抗期を迎えたティーンエイジャーに至っては、手が付けられなくなり、事件に至ってしまった、不可思議な家庭の様子が淡々と描かれていた様に思う。
しかし、この母親も、父親も、本気で、ケヴィンの性格的な問題に取り組んでいるようには見えなかった。そんな両親が何故存在していたのか、特に母親が、我が子に対して、あんな態度に至ってしまうその過程がもっと詳しく描かれないと、私には理解不能な映画だった。
ケヴィン少年は、唯一の理解者の一人であった筈の父親から、幼少の頃から教えて貰った弓矢で、学校の生徒を無差別に殺害していくと言う心理も理解出来なかった。
しかも、母も父もこのケヴィンの言葉使いが荒く乱れてきても、全く注意もせずに、叱らないで生活していたのは、親としての責任を放棄しているようで、不可解であったし、最後には妹と父親までをこの少年が殺害していた事が判明するが、この状況に理解出来ない。
この家庭は経済的にも、生活するには何一つ不自由の無い、中流家庭なのだから、当然セラピーをもっと早期に受けるのが普通である筈だし、納得がいかない。
事件後は、近隣の人々からの、嫌がらせもエスカレートし、母親はひたすらその嫌がらせに耐え、ペンキで汚された、家を洗い流し、掃除する様は、磔にされたキリストを想わせるような重苦しさだった。これが殺人犯を家族に持つ人々の苦悩と言うものなのだろうか?しかし何人の被害者を出し、その被害者の誰一人の事も描いていないこの作品は何故か中途半端で、理解出来ない作風である。むしろこの家庭では成るべくしてケヴィンは殺人犯に育った気がする、何とも悲しく哀れな物語で作者の意図には着いて行かれなかった。