劇場公開日 2012年10月26日

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「本作に見るアメリカの保守主義」アルゴ アリアス元大統領さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0本作に見るアメリカの保守主義

2013年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

寝られる

 新米のパフレヴィー政権を打倒したイラン革命(1979年)の年に起こった、イランアメリカ大使館人質事件を題材にし、人質救済劇の顛末を描いています。しかしながら、そのone-sidedな描き方には大いに問題があり、これを単なるエンターテイメントとして見ることはできません。

 ストーリーそのものには触れませんが、冒頭でイラン革命に至った国際情勢をさらっと概説し終えると、その後は最後の最後までアメリカ視点の非常に偏った映画です。登場するイラン人は暴徒のみで(ただ一人だけ例外がいますが)、アメリカ大使館の人間は専ら被害者のようです。ちなみに当時のアメリカ大統領は民主党のジミー・カーター大統領です。

 本作は第85回アカデミー賞において作品賞を受賞していますが、このような作品が賞を取ってしまうことに憤慨しているのは私だけでしょうか。作品賞にノミネートされた映画でアメリカの歴史に関係しているのは、本作と「リンカーン」、そして「ゼロ・ダーク・サーティ」の3作品です。
 「リンカーン」は共和党の大統領として南北戦争を戦い、奴隷解放宣言をしたかの有名なリンカーン大統領を好意的に描いた映画です。この中で焦点を当てられているのは奴隷解放に反対する民主党との争いです(その民主党の現在のリーダーが黒人とは滑稽なものです)。
 「ゼロ・ダーク・サーティ」は911のリーダーとされるビン・ラディン殺害に至るCIAの苦悩がモチーフとなっています。この作品の脚本はどこまで事実を反映しているのか判断できないため、何かと物議を醸す内容となっていますが、観てみると敵対するイスラム圏へ配慮しているのが分かりますし(特に特殊部隊の突撃シーン)、前半のCIAによる過酷な拷問場面を見ても、アメリカ万歳な映画でないことは明白です。

 見比べてみると、3作品の中で最も中立性に欠けるのが「アルゴ」なのです。そして、アカデミー賞作品賞発表時にジャック・ニコルソンとともに、中継でプレゼンターを務めたミシェル・オバマの異例の登場。これらを鑑みると、アメリカの保守主義を感じるとともに、嫌悪感を催します。3作品の中で最もオバマ政権に都合の良い映画が受賞したわけですから、政治の映画界への介入を疑われても無理がないでしょう。

アリアス元大統領