「依存症患者が依存症だと認める事の難しさ」フライト arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
依存症患者が依存症だと認める事の難しさ
「英雄か?犯罪者か?」
というコピーが、大分誤解を生んでいるらしいが、実はこういう意味だった。
英雄→素晴らしい機転と操縦技術で被害を最小限にとどめたこと。
犯罪者→アルコールとコカインを摂取して飛行機を操縦したこと。
飛行機が事故を起こしたのは、整備不良による部品の磨耗が原因であり、ウィトカー機長に落ち度はない。むしろ、彼の機転と冷静な判断によって多くの命が救われた。
しかし、アルコールとドラッグを摂取して飛行機を操縦する(多くの人命を預かる)のは明らかな犯罪である。この事故では多くの命を救ったが、彼はいつかその同じ命を危険に晒すことになっただろう。
彼はアルコールの問題で離婚しているので、離婚が原因でお酒やドラッグに溺れた訳ではない。何がきっかけで依存症になったかは、ここではあまり問題ではない、少なくともその辺りの事情を描かなかったのは作り手がそう判断したからだろう。
ここで重要なのは、依存症患者が自分は依存症(病気)だと認める事の難しさであり、助けが必要だと認める事の難しさなんだと思う。
機長は酒を飲むことがいいとは思っていないが、自分はやめようと思えば自分でやめられると思っている。
病院で出会うニコールは自分は依存症で助けが必要であり、もう二度と元には戻りたくないと思っている。
彼よりも一歩先を歩いている人間。
しかし、そんな彼女の助言も聞き入れない。
事故の犠牲となった恋人だった客室乗務員に自分の罪を着せるという段階で、ようやく少しは彼に残っていた良心が真実を告白させる。
『失われた週末』を観た時にも感じたが、依存症患者は飲み続けるためなら、どんなことでもする。ありとあらゆる場所に酒を隠し、酒を買うために商売道具を売り払う。
ウィトカー機長は命を運ぶ仕事をしているという基本的なことまで忘れていた。
それが依存症の恐ろしいところなんだと思う。
今作はフィクションではあるが、フライト前にアルコールの検査をしないというのはどうにも解せなかった。
機長が病院で出会うガン患者を演じたジェームズ・バッジ・テールは印象に残った。
この作品の後、大作に続けて出演しているのはこの演技が注目されたのか?