「人間の二面性を問う」フライト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人間の二面性を問う
いい意味で期待を裏切られた映画だった。
アトランタ行きの旅客機にトラブルが発生。機長の神業的な操縦テクで不時着し、墜落の大惨事を免れる。機長は一躍英雄になるが、アルコールが検出され…。
機長は果たしてアルコールを飲んだのか?否か?…という話ではなかった。
この機長、英雄どころか、とんでもない男だった。
好きな物は、アルコール、クスリ、女。
冒頭から、CAと一夜を共にした後で、フライト前なのにクスリもアルコールもやる醜態をさらす。そんな状態で操縦席に座り、さらにフライト中にもこっそり飲酒する。何て奴だ!
しかし、決して悪人という訳ではない。墜落の危機を救ったのは紛れもない事実。
事故の後、アルコールをやめる決意をする。
ところが、事故の事で疑いがかかり、それから逃避するかのように再びアルコールに溺れる。
彼を救おうとする協力者にも暴言を吐く。せっかく知り合った女性にも暴言を吐く。
今度こそアルコールを断ち切ろうとするが、大事な公聴会の前夜、再三アルコールに手を伸ばす…。
悪人ではないが、弱い人間なのだ。
周囲の信頼を裏切り、自分の心の弱さに負ける。
弱くても、自分と葛藤する。
“嘘”という名の制服を着たまま空に戻るか、“真実”という名の自分をさらけ出すか。
人は誰でも葛藤した覚えがあるだろう。大小どんな葛藤でも。
葛藤を通じ、人間の二面性を問う。
善人でもあり、堕落したダメ人間でもある主人公。
そんな複雑な主人公に、デンゼル・ワシントンはぴったり。
以前は正義感の強いイメージだったが、最近はダークな役もこなし、その二面性の体現に説得力がある。
今回もオスカーノミネートも納得の素晴らしい演技。
ロバート・ゼメキス12年振りの実写復帰作だが、手腕は全く衰えていない。
とても見応えのある映画だった。