マシンガン・プリーチャー : 映画評論・批評
2012年1月24日更新
2012年2月4日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
“共感”ではなく“衝撃”が観る者の胸を撃ち抜く驚愕実話の映画化
マシンガン牧師。この奇抜な題名を目にして、真っ先に連想したのは1996年のトム・ベレンジャー主演作「野獣教師」だ。凄腕の元傭兵がとある高校に教師として赴任し、学園に巣くう犯罪組織との激闘を展開。そんな“でたらめ”だが、ひたすら“痛快で面白い”B級活劇を勝手に期待していた。
実際のところ、本作のストーリー展開は荒唐無稽だ。ペンシルベニアの麻薬の売人が妻の勧めで教会を訪れ、神への信仰に開眼。そしてアフリカでのボランティアに参加した際、現地の子供たちが虫けらのように殺される現実を目の当たりにし、怒りのマシンガンを握り締める。どうです、まさに現代の「野獣教師」でしょう! ところが何とこれは実話の映画化で、主人公サム・チルダースは今もアフリカの子供たちを守るために闘い続けているというのだ。
「チョコレート」から「007 慰めの報酬」まで多彩な作風で知られるマーク・フォースター監督は、この仰天実話を予定調和的な美談に仕立てなかった。私財をなげうってスーダンの荒野に孤児院を建設し、故郷の妻子や友人を顧みなくなる主人公の矛盾を丸ごと描き、観客の共感を誘うどころか、驚かせ、困惑させ、動揺させる“問題作”を生み出した。そこにこの映画の価値がある。悪魔と闘う神のしもべに扮したジェラルド・バトラーの大熱演も凄い。危うい狂気すらみなぎらせるマシンガン牧師は、救済という言葉の意味や、正しき行いとは何なのかという問いを発しつつ、観る者の胸をこれでもかと撃ち抜いて蜂の巣にするのだ。
(高橋諭治)