「彩る、「壁」」最強のふたり ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
彩る、「壁」
本作が劇場映画デビュー作となるエリック・トレダノ監督が、パリに住む市井の人間を軽やかに描く力作「PARIS」にも出演したフランソワ・クリュゼ、「ミックマック」のオマール・シーを主演に迎えて描く、人間ドラマ。
異なる境遇、価値観をもった2人の人間が、衝突し合い、笑い合い、互いを認め合っていく。世界各国、この極めてシンプル、かつ難しいテーマを扱った映画は数多い。優等生と、不良。金持ちと、貧乏人。男と、女。大きく捉えてしまえば、全ての物語の根底を支えている巨大な柱といって過言ではない。
ただ、この「柱」。多くの観客が「う~ん、ちょっと苦手かも」というキャラクターが、奇抜な価値観を振りかざして輝く相対するキャラクターに引っ張られ過ぎると、映画作品の軸となる「雰囲気」なり、「スタンダード」さえもが見事に崩れ去る事もしばしば。「いつの間に、脚本家が変わったのですか?」と作り手にフリーダイヤルで抗議したくなるほど、世界が暴力的にひっくり返る危険も孕んでいる。
だから、怖い。だから、面白い。
さて、本作はどうだろうか。事故で下半身不随になり、人生を持て余している大富豪の家に、刑務所帰りの破天荒な青年がひょんな事から入り込む。知らない世界、むくむく膨れ上がる好奇心。富豪の人生が少しずつ、熱を取り戻す。
単純にあらすじを追えば、数多の「柱崩壊」ドラマとの差異を推し量るのは難しい。だが、この二人の間には友情という糸と並び、透明な「壁」が立ちふさがっている。この一点に、本作の魅力が詰まっている。
聞いたことのない音楽。吸ったことのないタバコ。青年が差し出す「未体験」に、富豪は惹かれていく。と、同時に、「自分は、自分」という厳格なアイデンティティーは決して崩すことなく、青年との間に築いている。
叱るべきは叱り、楽しむべきは楽しむ。認め合うべきは、認め合う。富豪側に、人間として確固とした性格の基礎があるからこそ、青年も安心して彼を自分のテリトリーに引っ張り込める。その安心感と、本当の意味での信頼感が物語の肝であり、観客の高い満足度の根幹を支えている。
破天荒なだけじゃあ、見苦しい。硬いだけじゃあ、肩がこる。的確なバランスで紡がれる2人の人間の心の再生が、透明な「壁」を鮮やかに彩っていく。
きっと本作の作り手は、たくさんの人間とぶつかり、戦い、認め合ってきた素敵な経験をもつのだろう。だからこそ、「変わる」「変える」群像劇をこれだけ情感たっぷりに描けるのだろう。単純に「強引に、相手を塗り替える」心の交流に満足する映画の作り手に、笑顔で捧げてあげたい作品だ。