「実は社会的な弱者と強者の逆転がウケた?」最強のふたり マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
実は社会的な弱者と強者の逆転がウケた?
とにかく面白い。久しぶりに笑った。
お金は自由になるが身体が不自由な中年男と、身体は動くが移民の出で貧困な黒人青年。そんなまるで違う環境の二人が、いつしか心の交流を持つようになる。そんな話だぐらいのことは観る前から察しがつく。予告篇から作風も読める。ところが、そんな詮索など微塵もなく吹き飛ばされるのがこの作品。ひとつひとつのエピソードが際立っていて、しかも主人公ふたりの人生観に直結し、周りの人間も巻き込んで笑いの渦をつくる。
本音でぶつかることがイヤミにならず、互いのハンディキャップを笑い飛ばす原動力になっているのがいい。これは主役ふたりの上手さだ。
とくに黒人青年・ドリスの歯に衣着せぬ物言いが気持ちいい。
フィリップの教養や趣味を笑い飛ばし、詩のような手紙に「そんな文章を喜ぶ女がいるのか?」と毒づく。
粗野だが迷いや落ち込みを笑いに変え、怒るときはマジに怒るストレートな生き方をするドリスの方が、金持ちのフィリップよりも肩入れしやすい。
フィリップにもう少し感情移入できたなら泣ける1本にもなったのだろうが、残念ながら自分とは環境が違いすぎる。ひとのいい紳士だが、この作品ではイジラレ役だ。いつのまにかピアスまでしている。泣けなくても笑いだけでじゅうぶん元を取る。
フランスでこの作品がヒットしたのは、案外に社会的な弱者と強者が精神的に逆転する小気味よさが大衆にウケたのではないだろうか。王政をひっくり返したお国柄だ。
人間ドラマにアクションを自然に織り混んだ脚本、話に引き込むカメラワークと無駄なカットがない編集、すべてが洗練されている。
ドリスがちょっかいを出す秘書マガリと、ドリスの優しさを見抜く年配の助手・イヴォンヌが、作品に幸せを含ませている。