劇場公開日 2012年9月1日

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「極めて21世紀的な見事な作品」最強のふたり あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0極めて21世紀的な見事な作品

2019年4月15日
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鑑賞方法:VOD

素晴らしい映画に出逢えました
ただの障害者と介護人との心のふれあいのお涙頂戴のような安易なものではありませんでした

21世紀的な様々な問題を自然な視線で見つめています
原題の通り、人は誰しもアンタッチャブルな何かを抱えています
それを尊重して、それに触れないことも必要ですし、かといって必要以上に回避するのもまた違う
しかしドリスは極めて自然な態度で絶妙な距離感、踏み込み方を示してくれます
どういう人であれ人を人として向き合い、直視して誠実に向き合あことの大事さを教えてくれます
つまり人間を人間として互いに認めあうということです

自由、平等、博愛
文明社会であることの根源的な理念
それが21世紀の今、本当は大事にされているようで現実はただのお題目の空念仏になっていないかをえぐっている鋭さを感じました
それ故にドリスは黒人の移民として設定されているのでしょう

映画としても、冒頭のスポーツカーでの暴走シーンとラストシーンがつながり、導入部のつかみと共にそのシーンの意味の理解が深める為の構成となっているなど巧みさが光ます

フィリップの誕生日でのドリスのブギーワンダーランドをチョイスするダンスシーンは見事です
感情が解放され爆発した名シーンでした
つまりアンタッチャブルでバラバラだった人々が、それぞれの心にタッチできた瞬間なのです
このように音楽がブラックミュージックにファンも納得の嬉しい効果的な使われ方をしています

音楽も絵画も詩文(手紙)も人間が人間の感情を伝えるための手段であって、芸術的な価値は金銭的それも投機的な価値とか、芸術史的な価値、技術とかの価値云々の前に、人間が人間同士共通に感じ合うためにあるものなのです

だからまどろこしいことはせずに、楽しい時には音楽に合わせて踊るべきだし、技術も素養なぞなくても思うままに絵を描けば良いし、美辞麗句を尽くした散文の手紙なんかよりもすぐに電話すべきなのです

建前を守っていても本質は守られてはいない牢獄

安楽なようで人間と認められていないフィリップの境遇、ドリスの最下層の境遇も共に牢獄であり抜け出せません
そしてそれは21世紀の社会そのものなのです

本作はそこからの突破口を指し示しているのだと思います

前世紀では絶対に作れない、21世紀だからこその映画だと思います
今後さらに高く評価されていく映画だと思います

あき240