進撃の巨人 ATTACK ON TITAN : インタビュー
三浦春馬&水原希子が「進撃の巨人」に“捧げた”熱き心意気
諫山創氏の大人気漫画「進撃の巨人」の実写映画化が発表されたのは、2011年12月だった。しかし製作は一旦白紙となり、樋口真嗣監督のもと新プロジェクトとして始動することになったのが、12年の秋。昨年5月11日に長崎・端島(通称・軍艦島)で撮入以来、主人公エレンを演じ“座長”として現場をけん引した三浦春馬、ヒロインのミカサに扮した水原希子に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
全世界累計発行部数5000万部を突破する同名原作を、2部作で実写映画化するビッグプロジェクトだけに、樋口監督を筆頭にそうそうたるスタッフ、キャストが結集した。特撮監督を尾上克郎、特殊造形プロデューサーを西村喜廣、扮装総括を柘植伊佐夫が務めたほか、原作者の諫山氏の監修のもと、「GANTZ」2部作の渡辺雄介、映画評論家の町山智浩が共同で脚本を執筆。そしてキャストも三浦、水原に加え、長谷川博己、本郷奏多、三浦貴大、桜庭ななみ、松尾諭、石原さとみ、ピエール瀧、國村隼、渡部秀、水崎綾女、武田梨奈ら個性あふれる面々がそろった。
原作の知名度の高さゆえ、大きな挑戦になることは誰の目にも明らかなことだったが、2人は出演することに何のためらいもなかった。ミカサ役のオファーを受けた水原が口火を切る。「オファーをいただけて嬉しかった。私としては断る理由がないですよ。ミカサは人気のキャラクターですから、賛否両論が起こるだろうなあと思いましたけれど、やらないわけにはいかないと思いました。それだけに、自分に出来ることは全てやらなきゃいけないし、いろんな意味で腹をくくった決断だったと思いますね」。
水原の話を聞き終えた三浦は、静かな口調で同調する。「お話をいただいた時に即決しました。オファーをいただく1年半ほど前、『進撃の巨人』が実写化されるという噂を聞いたんです。役者の先輩方もそういう情報を耳にしていたようなので、信憑性の高い話なんだろうなと思っていたんです。ですから、お話をいただいた時って撮り終えているか、撮影のさなかだと思っていたので、本当にびっくりしましたね。ただ、原作の大ファンでしたし、映像の中で立体機動装置で空を飛べるんだと思ったとき、嬉しかったですしこの映画に出演したいと思ったんです」。
今作は、謎のヒト型怪物・巨人たちが支配する世界を舞台に、巨大な防護壁の内側で生活する人類と、壁を越えて侵入してきた巨人たちの壮絶な戦いを描く。三浦が演じたエレンに対しては、原作の諫山氏から「原作のままのようなストレートな熱血漢にしないでほしい」と要望があった。そのため、母親を巨人に殺されたことが行動原理になっている原作の設定ではなく、生まれた時から壁の内側での生活を余儀なくされた閉塞感を打破したいと願いながらも、やりたい事が具体的に見つからない現代の若者を象徴するようなキャラクターへと変更が加えられた。
「根底には、原作のエレン像を置いておきたいと思った」と話す三浦は、「何か困難に立ち向かうとき、がむしゃらで、とてもまっすぐ。そういった部分が痛々しく見える瞬間もあれば、青臭く見える瞬間もある。特に今回はエモーショナルな部分に特化して演じていたように思います」とエレンを構築していった。そして、「とにかく感情だけでまっすぐやってみるということ。僕の場合、普段『こういうシーンの場合はああした方がいいんじゃないか』とか、技術的なことを含めて考えてしまいがちなんです。そういうことではなく、気持ちを温めて、それをそのまま芝居で表現するという事に重きを置いてみようと思ったんです。もちろん、時には考えてしまうことはありましたが」と明かす。
一方の水原は、ミカサという役へのアプローチとして「すごくポーカーフェイスで感情を表に出すタイプではないですよね。ただ、内面は常にいろんな事を感じている、エモーショナルなキャラクターだと思うんですよ。その事を敏感に感じ取ることを、まずは心がけていましたね」と肉付けしていったことを振り返る。さらに、「時にはミカサが自分をコントロールできないくらいのエモーショナル感、ある意味ではミカサらしくない行動を取っちゃうところを表現するのは難しかったですね。あと、どのシーンにおいても基本的に絶望的な状況でしたから、精神的に疲れました(笑)」と筆者の目をまっすぐ見据えながら語った。
そして、激しいアクションシーンが全編にちりばめられている今作にあって、立体機動装置で飛ぶ演技について触れないわけにはいかない。腰に装着した装置から飛び出るワイヤーの先端にあるアンカーを巨人の体や建造物に突き立て、ワイヤーを巻き取ることで高速移動を可能にする装備で、原作ファンにはおなじみだ。今作で実体化させるため、扮装統括の柘植がシチュエーションによって軽量タイプから重量感のあるリアルなものまで、3種類を制作した。
装置を身につけて飛ぶシーンはワイヤーアクションによるものだが、トレーニングは過酷を極め、水原は1日に8時間もワイヤーの練習を続けたことがあるそうで「普通のアクションではないし、普通のワイヤーアクションでもないじゃないですか。2度と経験することができない、すごく特殊なものだったので、見せ方にもこだわりましたね」と述懐。ミカサは誰よりもアクションが多かっただけに、「すごく苦労はしましたよ。ただ、あれによっていろんな方とコミュニケーションが取ることができました。なかなか慣れられるものではないから、技術的なことはもちろん感情的なことも含めて『こうした方がいいんじゃないか』って何度も話し合いましたね。動きながら演じるっていうことがいかに難しいかを体感しました。飛びながら考える…ということをたった何秒かで伝える難しさ。いろんなものに直面したような気がします」と話し、充実感をにじませる。
三浦はまた、今までに経験したことのない特撮の難しさを目の当たりにした。「だいたいどのカットも、大きなファンで風をおくられ、その風に乗せて粉をまかれ、小さなゴミに見立てた発泡スチロールが飛ばされるんです。それが樋口監督の世界観を表現するひとつの技法なんですが、巨人におののいている表情をするにあたって目を見開いていると、スタートがかかる前から目にゴミが入るんです。目が痛い、目をつむりたいという生理現象を押さえながらの芝居でしたから、本当に大変でした」と苦笑いを浮かべると、水原も「体が反応してしまうことを止めないといけないから、あれは大変でしたよね。全員ががむしゃらでした」と頬を緩め、三浦と笑い合った。
また三浦は、「スタッフを信頼して演じる瞬間」について話し始めた。「特撮のなかで、感情を込めた芝居にアクションを入れる場面が多々あったのですが、動きを入れるとなるとそちらに意識がいってしまい、感情のコントロールがおろそかになってしまうことがあるんです。キャストは、そこと戦っていたんじゃないでしょうか。プレイヤーとして独りよがりの瞬間って出て来ると思うのですが、そことの折り合いをつけるマインドを整理するのが、みんな大変だったと思います。特撮ですから、自分の感情をより大きく表現しなければいけない。自分ではやっているつもりでも、画面を通して見ると、自分が思っていたよりも小さく映っていたということもありましたし。だから、(俯瞰して見る)スタッフさんを信頼して演じる瞬間がたくさんありました」。
前編にあたる「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」は、8月1日の日本公開を前に世界63の国と地域での配給が決定している。また7月14日(現地時間)には、米ロサンゼルスのエジプシャンシアターでワールドプレミア上映され、本編終了後にはスタンディングオベーションが巻き起こるほど、本場ハリウッドでも受け入れられた模様だ。
現地の人々の興奮を肌で感じ取った三浦は、意欲を新たにした様子だ。今後については、表情を引き締めながら「お話をいただいたら、それに応えていくだけです!」ときっぱり。水原も今作に出演した意義を改めて見出したようで、「チャンスがある限り、私はやっていきたいと思っています」と目を輝かせる。「LAに行って感じたのは、この映画って他の日本映画よりもビジュアル的な特徴はありますが、すごくエンタテインメント作品じゃないですか。どの国の人が見てもリアクションのしやすい映画。私は経験も少ないですし、どの現場へ行っても全てが初めての経験。女優という仕事に触れて、いい映画を見て感動して涙を流すように、私もそうやって見てくれた人を感動させたり、エモーショナルな気持ちにさせられるような女優さんになりたいし、そういう作品に出たいって思ったんです。それってすごく難しい事だし大変ではありますが、そういう女優さんになっていきたいんです」。どこまでも、ひたむきな眼差(まなざ)しを注ぐ2人の今後の一挙手一投足から目が離せない。