「努力型エンターテインメント。」鍵泥棒のメソッド ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
努力型エンターテインメント。
少し前に「最強のふたり」を観た時にも似た感想を抱いた私。
確かにいい話なんだけど、どこが最強?なのかよく分からない。
今作はあの内田けんじ監督作品ということで、ハナから期待…
し過ぎたわけでもないけれど、前二作品とは明らかに違う。
なので「あれっ?」と思った人、けっこういたんじゃないだろうか。
良く言えば、観客の「こうくるのだろう」期待を見事に裏切って、
スコーン!と直球勝負に出たイイ話なんだけど、気持ち良く
裏切られたと思う側と、そうでない側に分かれるのは仕方ない。
だって明らかに違うんだもん、今までの手法と。
いや、正しくはきちんと練り込まれた脚本に、冒頭からの伏線、
キャストにも99%アドリブなしの演出、といういわば監督の指示
そのままが活かされたメソッド作品だということになるんだけど、
観る側に刷り込まれてしまった推理が不可能になってしまった
ことで、アレレ~?っと肩透かしを食わされてしまった気分に。
ちなみにこの監督、99%完璧なパズルを作るために映画監督に
なったワケでは、まぁないんでしょうが…。(決めつけちゃ失礼)
オリジナル脚本に拘る姿勢は大賛成。これからもお願いします。
さて…。
まず冒頭の広末のしれっとした演技に圧倒される^^;
この人のとってつけたような顔面演技が嫌いな私でも(ゴメンね)
久々に完璧なコメディを観たと思うくらい、今回の彼女はいい。
最初から最後まで、この広末が演じた女性に関しては文句なし。
そして堺雅人。どうなんだろう~^^; この、一見主人公だろうと
思われた男が、最後まで情けない男に終始。どこが堺雅人?と
思わせるくらいベタベタな演技を披露している。これもさすが!
香川照之に関してはもう今回の演技が台本通りだろうがアドリブ
だろうが、まったくいつも通りの香川照之なので…何ともはや^^;
この御三方が、監督の指示通り、まったくブレることなく、今作を
牽引し続けてたのはハッキリと観て取れる。彼らを観て損はない。
これらの大物をサクッと自分の支配下(監督だもんねー)に置いて、
窮屈な演技を強制する(ホントすいませんね)ことができるところが、
優れた監督の御力。ということになるんでしょうけどね。
その他脇役に至るまで(予想外はないけど)配役の妙は活きてます。
メソッドといえば劇中でも登場する一コマに、メソッド演技法がある。
スタニスラフスキーの影響を受けたストラスバーグらアメリカの演劇陣
によって、1940年代ニューヨークの演劇で確立された演技法・演劇理論
のことで、役柄の内面に注目し感情を追体験することにより、自然で
リアリステックな演技・表現を行うことに特徴がある演技方法だが、
私の大好きなJ・ディーンも彼のアクターズスタジオの出身であった。
この演技法は役者自身の内面を深く掘り下げ精神的な負担を請うので、
革新・創造的な反面、批判の多かった演技法としても有名である。
(役に入り込むまでかなりの時間をかけるため、周囲が迷惑するのね)
で、今作でいうと香川が演じているコンドウのやり方がまさにそれ^^;
演じる側(記憶喪失中は自分自身のため)を徹底的にリサーチ・分析し、
その人物になりきって追体験していく。もの凄く時間のかかる作業だが、
一旦モノにしてしまえば、その人以上に為りきれるのかもしれない^^;
このくだりに対する演出は抜群に巧いなと思った。
コンドウの正体を知れば「あ~^^;」と頷けるところだが、それを以てして
今度は桜井(堺)にまでメソッド演技を仕込むとはね。…ここは笑える。
なんだろう、だから今作は、鍵泥棒するならここまで演じてみろ!!と
云わんばかりの、努力型エンターテインメントなのだろうか^^;
すべての人間が誰かを(何かを)演じ、正体が明かされる後半に於いては、
逆利用したかのような解決法を、またも誰かに伝授・体験させていく。
でもって、観客はそれらを総じて追体験^^; いや~メソッドだらけだ。
私は胸キュン…とまではいかなかったんだけど(ゴメンね)
いい話なので単純に楽しめると思う。でも他人の鍵を盗んではいけない。
(配役それぞれの掘り下げ方が甘かったかな。追体験に及ばなかった^^;)