かぞくのくに : インタビュー
安藤サクラ×井浦新
引き裂かれた兄妹演じるふたりがつくる家族の形とは
世界的に評価されたドキュメンタリー「Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」で知られる在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督初の劇映画となる「かぞくのくに」は、ヤン監督の実体験を基にした家族の物語。政治や国の体制に翻ろうされる家族の戸惑い、そして強い絆を描き、第62回ベルリン映画祭フォーラム部門で国際アートシアター連盟賞を受賞した。北朝鮮と日本とに離れて暮らし、25年ぶりに再会した兄と妹をこん身の思いで演じきった安藤と井浦が撮影を振り返った。(取材・文/編集部 写真/本城典子)
1959年から84年まで行われた北朝鮮への“帰国事業”。旧ソ連の影響で経済成長が見られた当時の北朝鮮は地上の楽園とうたわれ、日本で差別や貧困に苦しんでいた9万人以上の在日コリアンが新潟から船で渡った。こうした北への移住者は、国交のない日本への再入国がほとんど許されていないのが現状だ。
ヤン監督自身がモデルでもある、主人公のリエを演じた安藤は86年生まれ。本作のオファーを受けてからヤン監督の「ディア・ピョンヤン」を見てこの事実を知ったという。井浦が演じる兄ソンホは、幼いころから北朝鮮に移住し、病気療養のために特別に3カ月間だけ許可を得て日本に帰ってくるという設定だ。
現在も日本と政治問題を抱える国を扱い、しかも監督の実体験がベースとなっているというだけに、気負いや使命感を感じてしまうのではないかと問うと、井浦は「全くないです。政治的な使命を持つとか、監督のお兄さんを役者に憑依(ひょうい)させてとか、そういうことで作る話ではない。監督もそれを望んでいないんです」ときっぱり。安藤も「私はおそらく監督が経験していることを演じるので、監督に『こういう時はどんな気持ちでした?』と聞けたのかもしれないけれど絶対聞きたくなかった。別にそれは違うことだと思っていました」と、あくまでふたりの感性で兄妹像をつくり上げた。
選択の自由のない国で生活してきたソンホ。言葉少ないながらも、胸に抱える多くのことを物語る井浦の“抑え”の演技に、引きこまれずにはいられない。安藤はそんなソンホに正面からぶつかる妹リエの役作りを「新さんのお芝居を近くで見ているとそこから感じていけるものがたくさんあったので、常に新さんをじっと見ていました。お兄ちゃんは帰ってきたけど、家族とオープンではない関係。だからとにかく、お兄ちゃんを見つめていようと思ったんです」と振り返る。
喜ばしい家族の再会にもかかわらず、ヤン・イクチュン扮するソンホの監視役が派遣され、一家は団らんのひと時でも常に“北”を意識せざるを得ない。一人ひとりの正直な気持ちを言葉で表現することすらできないこの一家について井浦はこう語る。「この家族を特別な家族にしちゃいけないと思って演じていました。種類は違えど、すべての家族に悩みというものはあって、悩み方が違うだけだと思います。在日とか、北朝鮮というのはこの映画に関して言うときっかけでしかなくて、テーマではないと思うんです。普通の家族に起きた、ある一つの出来事でしかないので、この家族は決して特別な家族ではないと考えました」
演じる上で心の痛みを伴うシーンも多かったと明かす安藤は「アドリブでやっても進まないし、それ以上好きにやったり、また台本通りやっても進まないし……シーンごとにみんなで悩んで、悩んで、試行錯誤して何度も重ねた上でつくり上げました。本編に映っていないシーンも相当あります」と語る。井浦が「その分、現場での思いも大きくなるんです」と補足するように、ふたりの本作への思い入れは相当のものだと伝わってくる。
ふたりは劇中さながら兄妹のように打ち解けた雰囲気で、取材に応じてくれた。ともに抜群の存在感を見せ、現代の日本映画をけん引する個性派俳優として名高いふたり。初共演した互いの印象を聞いてみた。
「すごいなって本当に思った。正直な方なので、心地よくてお芝居が楽しかったです。これはすごくほめ言葉なんですけど“気持ち悪い”魅力があって(笑)」と安藤は独特の表現で井浦を絶賛。以前から安藤との共演を望んでいたという井浦は「この作品でのソンホは、サクラさんとでなくては出てこなかった。心が押しつぶされそうになってしまうような話ですが、そういう芝居をサクラさんとできることがうれしくて、毎日現場に向かうのが楽しみでした。兄妹とはまた違った設定だったらどうなるんだろうと、そんな欲が出るくらい魅力的な方ですね」と笑顔を交わし合いながら述懐した。