「終末映画かと思ったら・・・」パーフェクト・センス tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
終末映画かと思ったら・・・
この作品の劇場チラシには荒廃した都市の姿が描かれ、「終末」や「人類最後の瞬間」の言葉も使われているが、実際の内容は普通のパニック映画やディザスター映画とは少し趣が違う。
人々はまず過去の出来事を思い出して、後悔や悲しみにくれた後臭覚を失う。次に強烈な飢餓感に襲われた後味覚を失う。そして更に怒りに我を忘れた後で聴覚を失い、ラストで視覚さえ失ってしまう(触覚を失う描写はない)。
人類が未知の病気に襲われるという作品の場合、ストーリー展開としては「その原因を解明し、人類を救おうとする医師や科学者の活躍を描く」か「病気の蔓延によって文明社会が崩壊した後、新たな環境のなかで人々はどう生きるのかを描く」のどちらかが多いが、この作品はそのどれとも違う。感染症研究者のスーザンは全く無力だし、社会は混乱するが崩壊はしない。
確かに感覚を失う度に人々は混乱し、一部で破壊や殺人も行うが、それでもしぶとく日常を取り戻そうとする。それを象徴しているのがマイケルがシェフを務めるレストランの描写である。人々が感覚を失う度に客足は減り、オーナーは店じまいを口にするが、それでも色々な工夫(味ではなく食感に訴えるなど)で客足は戻ってくる。
またパニックに襲われる世界でも、冷静に誠実に自分の職務を果たしている人々も描かれる(姿は出てこないが発電所が動いて電気が来ているのもその表れ)。製作者は安易な解決策を提示することも、声高に人間の愚かさを訴えることもなく、淡々とあり得べき姿(マイナスもプラスも)を描いていく。そしてラスト、視覚をなくした暗闇のなかに提示される「それでも人は生きていく」というメッセージこそがこの映画のテーマであると思うのだ。
涙ボロボロの大感動作ではないが、観終わった後映画の中の人々に「これから大変だろうけど何とか頑張って。僕も自分の人生に頑張ってみるわ」と呼びかけたくなる佳作であった。