サウダーヂ : 映画評論・批評
2011年10月11日更新
2021年10月23日よりK's cinemaほかにてロードショー
小さな想いの集積が、巨大な幻想の街へと変貌する
タイトルのサウダーヂとはポルトガル語で「郷愁」を意味する。だが過去への思いだけではなく、追い求めて叶わぬ「憧れ」や「憧憬」といった未来への想いも、そこに重なり合うのだという。過去と未来が現在の上に折り重なって現在を震わせる、そんなイメージだろうか。
舞台は山梨県甲府市。典型的なと言ったらいいのか、誰もがよく知る荒廃する地方都市の姿がそこに浮かび上がる。もちろん誰もがよく知るのは、シャッター街となった街の中心街や荒む若者たちの姿で、そこにどんな人が何を思って暮らしているのか知る由も無い。この映画が捉えるのは、まさにそこに住む人々の姿である。ブラジルやタイからの移民たち、職を失う若者たち、彼らの抱えるモヤモヤとした不安や焦り……。
何か特別な物語があるわけではない。小さな小さな日常と個人的な想いが地層のように積み重なり、ひとつの場所を作り上げる。つまりそれは主人公たちの過去や未来が作り上げた幻想の街であり、そこはいつしかバンコクにもリオデジャネイロにもなる。現実の人々だけが作り上げられる幻想の街と言ったらいいだろうか。小さな想いの集積が、巨大な広がりへと変わるのだ。
だから2時間40分という上映時間は、まだまだ全然短い。私たちの胸の中には果てしない想いが詰まっているはずだから。この映画はその果てに向かって今も広がり続けている。
(樋口泰人)