劇場公開日 2012年3月31日

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「公民権運動を描いたお気楽映画」ヘルプ 心がつなぐストーリー キューブさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5公民権運動を描いたお気楽映画

2012年9月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

 最近のアカデミー賞作品賞にノミネートされる映画は昔みたいに興行的にも成功した、とは言い難い。しかしこの作品はアメリカでは口コミで話題となり、「猿の惑星:創世記」に続いて初登場第2位となった。
 この事実が証明しているのは、「ヘルプ」はとても観客受けしたということだ。実際、人種差別というヘビーなテーマを扱っているのにも関わらずストーリーはコメディタッチに仕上がっていてとても好感が持てる。元々の原作のおかげもあるだろうが、何よりもメイドを演じたヴィオラ・デイヴィスとオクタヴィア・スペンサーによるものだろう。
 しかしその人種問題に深く切り込んでいるかというと、そういうわけではない。結局の所「ヘルプ」は善悪を二元的に描いたお気楽な「ありがち映画」だ。時々ハッとさせられるようなシーンもある。例えばスキーターがメイド達の現状を本に書こうと、その一人エイブリーンに取材を頼むシーン。それにより仕事を失う可能性のあるエイブリーンは初めのうちは協力する気も無く、口を閉ざしてしまう。ここには白人の当の黒人を無視した独りよがりな正義感が如実に表れている。他にもスキーターの母親が自分のメイドをクビにしてしまう場面。彼女は周りの白人の目を気にして、二十数年間雇った家族同然のメイドを辞めさせたのだ。ここにも閉鎖的な土地ならではの差別が描かれている。こういったシーンがもっとあればこの映画も「ただの」映画に終わらなかった。
 だが俳優陣は全体的に素晴らしい配役ばかりだ。先ほども上げたデイヴィスとスペンサーは他とは比べものにならない存在感でこの映画の雰囲気全体を作り上げている。主演のエマ・ストーンは若干存在感が薄いが、それでも手堅く役を演じている。差別主義者のヒリーを演じるハワードも役柄そのままに成り切っていて、ジェシカ・チャンスティンは「ツリー・オブ・ライフ」で見せた演技とは真逆の頭の軽い役を嬉々として演じている。ただし彼らが演じた役の多く(特に白人達)はステレオタイプな人物ばかりだ。「人種差別主義者」か「黒人を助けようとする活動家」の2種類の白人しかこの映画にはいないらしい。差別問題を「過去のもの」として描いてしまっている所以がこういう所にもある。
 しかし初めにも言ったとおり、全体的には好感が持てる。笑うところは笑えて、感動するところはきっちりと感動できる(「お涙ちょうだい」のシーンが多すぎるきらいはあるが)。もっと良い映画はたくさんあるが、一度は見てみても良いだろう。
(2012年5月2日鑑賞)

キューブ