「このパイを食らえ。」ヘルプ 心がつなぐストーリー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
このパイを食らえ。
1950年代の作品を観ていると、人種差別を題材とした
作品が多いのに気付く。特に南部では古くから黒人を
メイドや使用人に配し、白人とは酷い差別を行ってきた。
それがどうしてそうなったのか、1964年に公民権法が
制定されるまでを描いた話なのかというと、そうではない。
もっと単純で(根深い問題なのは重々承知ですが)軽やかな
語り口の描き方をしている。庶民的でユーモアもある。
白人家庭の娘がライター志望、自分も小さい頃ヘルプさん
に育てられた経験がある女の子だ。彼女らの証言を記録し
それを纏めようとする彼女に対して、重く口を閉ざしていた
ヘルプさんたちが徐々に協力をしていく話。
並行して、一組の白人白痴妻とそこへ雇われたヘルプさんの
対話と成長が描かれる。
ここに登場するヘルプさん達は、揃いも揃って面白い。
饒舌でユーモアがあり子供に対する笑顔は一流と思えるほど。
そんな彼女らなのに、働きに対する賃金はえらく少ない。
子供を大学へやるため、前借りを申し出る彼女を前に
堂々と見下した説教を垂れる白人タカビ妻。あえなく、
落ちていた指輪をポケットにしまった彼女をすぐに警察が
逮捕する。どんなに真面目に頑張って働いたところで、
彼女たちの未来は、生まれた子供達は、同じ運命を辿るのだ。
酷い時代である…。何を持って差別が正当化されるのか。
だけど、言いたいことをハッキリと言い、家事に関しては
プロの腕前、何にも出来ない奥さんよりよっぽど重宝なのは
ヘルプさん達の方である。
そのことにいち早く気付いた、純粋な主人公と白痴妻は、
差別はおろか、彼女たちを優遇する。つまり学びを請うのだ。
彼女たちが何を考え、何を間違いで、何を正しいと思うか。
私はあの家でこんなことされた…。あんなことがあった…。と
半ば「家政婦は見た」的な世界が語られるのだが^^;
主人公はそこに人権を学び、白痴妻は家庭とは何かを学ぶ。
本来ならそんなことは、学校なり親からなり教わるものだ。
美味しいチキンの作り方を学んだ白痴妻が、ヘルプさんと同じ
キッチンで貪り合うあの表情の豊かなことったら!
知らないことは愚かなことだ。と頭でっかちの世間人は言うが
知らなくていいことなど一生知らなくていいのだ。と思う。
ましてや人を卑下するような慣例は最初からあるべきでない。
それでも(現代でも)ある種の差別は相変らず繰り返されている。
なんか人間ってそうやって、誰かを年中見下していないと安心
できない生き物なんだろうか。とすら、思える。
競争意識を持つことと、相手をイビリ倒すこととは違う。
卑怯な人間ほど、あの手この手で相手を打ち負かそうとするが、
そこに信念なんてものはないから、終いには感情で打ち負かす。
そしてそんな人間は、やっぱり最後まで変わりませんでしたねぇ。
本作で見事アカデミー賞助演女優賞を獲得したO・スペンサー。
主人公がインタビューするヘルプさんの同僚、という形だったが
彼女がまぁ魅力的で^^;可愛くて^^;面白くて^^;最高だった!
この演技ならもらって当然、と思える見事な演技を披露している。
前の家で酷い仕打ちを受け、半ばヘルプとして働くことにヤケを
起こしていた彼女だったが、自分のことを心底頼ってくる白痴妻に
次の家での彼女は(最初は旦那にバレないよう)心から相手を信じ、
彼女のために懸命に働く。上流家奥さんとして恥ずかしくないように
料理やマナーの基本を教え、子供の大切さを語り、慰め、励まし、
終いには自身の過去まで暴露する。
階級なんてクソ食らえ!(あ、言っちゃった^^;)
差別に傾倒するすべての人間にパイを食らわせたくなる作品だ。
ただひとつだけ言うと、もう少し脚本にリズムが欲しかったのと、
個々のキャラクターを広げ過ぎたため、時間が長すぎる印象がある。
心をつなぐ~という意味で、様々な取り上げ方を網羅したのだろうが
もっとタイトに絞った方が良かった気がする。全体の纏まりが悪い。
しかし女優達の演技が見事なので、そこに注目する作品ということで。
(これからはパイを食べる時、勇気が要りますね!いや、ウソウソ^^;)