劇場公開日 2012年1月14日

「バレそうでバレない滑稽な展開のなかに、主人公の老人が抱えた孤独な状況もうまく表現されていて、考えさせられました。」ロボジー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5バレそうでバレない滑稽な展開のなかに、主人公の老人が抱えた孤独な状況もうまく表現されていて、考えさせられました。

2012年1月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 矢口監督は、こういう企業の裏ネタモノを描かせたらピカイチでしょうね。同じ「ジー」つながりで、最先端のロボット開発に関わるエピソードと老人問題をドッキングしてしまうストーリーを思いつくなんて天才的です。
 誰が壊れたロボットの代わりに、ジジイが入ったかぶり物のロボットで、業界やマスコミの目やさらに、理大の学生までごまかしてしまうという途方も無い物語を思いつくことができるでしょうか。

 チープに破綻しやすい設定は、当然ニセモノであることがバレそうになることを織り込み済みでした。けれども決定的なピンチで何度もバレそうになるそうになるところを、思いもつかないアイディアでかわしてしまうところは圧巻です。ユーモアセンスも抜群。紙一重でバレそうでバレない滑稽な展開のなかに、主人公の老人が抱えた孤独な状況もうまく表現されていて、考えさせられるテーマもきちんと描かれているところはさすがです。最後のピンチを切りぬけるドンデン返しも秀逸。2時間の劇中、隙間なく楽しめる傑作でした。

 ロボット開発のスキルもない窓際社員の3人が、いきなり開発を命じられたのは、ひとえにワンマン社長の思いつきに過ぎなかったのです。初めは、何でも動くものをこしらえて、ロボット博で動かせば、広告宣伝費がない木村電器にとってただで宣伝できるぞという社長の寅算用だったのです。しかしなんとか作り上げたロボットは、お披露目を間近に大破させてしまいます。クビをおそれた3人が思いついたのは、ロボットの中に人を入れてごまかすことでした。
 社長と1回キリの約束だったから、こんな無謀な賭に開発者の3人は打って出ることになったのです。

 一方ロボットに入ることになる鈴木は、全くこの世界とは無縁の老人でした。妻に先立たれ、娘夫婦には偏屈さを疎まれて、一人暮しの退屈さから、たまたま気晴らしで応募したのが、開発チームが仕掛けた架空のかぶり物のオーディションだったのです。
 すんなりと鈴木に決まらず、アクシデントによる辞退が出て、仕方なく体のサイズがたまたま合っていた鈴木に白羽の矢が立つというお膳立てには、納得しました。

 開発チームにとっての不幸は、鈴木の老人としての動きが、ロボットの動きにはまり過ぎたということです。ロボット博での余りの好評ぶりに気をよくした木村社長は、勝手に“ニュー潮風”を使った企業PRキャンペーンを決めてしまいます。
 しかし彼らにとって、もう一つの不幸は、鈴木が頑固で偏屈で、人の言うことを全く聞かない老人だったということ。社長命令を渋々飲み込まされた3人は、再度ロボットになって貰えるよう鈴木の元に交渉に行きますが、インチキの片棒などできないと言下に断られてしまいます。「誰があなたがロボットだったなんて信じるものですか」の罵られた鈴木は、腹いせに老人会のメンバーに、新聞記事に載っているロボットはオレなんだよとネタバレを囁くものの、みんな鈴木が惚けてしまったものと相手にされないところが可笑しかったです。

 もう一度自分の存在を社会に認めさせたくなった鈴木は、ロボット役に復帰。でも大変なのが鈴木の度がはずれたわがままぶりでした。全国のキャンペーンに駆り出される“ニュー潮風”に随行することになる鈴木は、高級ホテルの宿泊に、贅沢三昧の食事を要求。 会社の経理からも経費の使い道を怪しまれたことで、開発チームは財政面でピンチを迎えます。そんなピンチを救ったのがロボットオタクの女子学生・葉子でした。彼女は以前“ニュー潮風”に助けてもらったことがきっかけで、“ニュー潮風”のおっかけとなっていたのです。開発チームは、彼女の大学に特別講師として招かれることで、講師料として経費を賄うことに。しかし、並みいる理大の学生を前にして、技術的なことを全く答えられない開発チーム。意外な「助っ人」が、このピンチをチャンスに変えてしまうのです。
 開発チームにとって最大のピンチは、鈴木が家族サービスのため独断で娘夫婦の自宅まで“ニュー潮風”のまま訪問してしまうこと。タクシーの運転手に顔出ししたところを目撃されているのに、バレずに済んでしまう絶妙な訳は、ぜひ劇場でご納得を!

 また、就活に来た葉子を開発チームが無碍なく追い返してしまうことで、葉子は反発し地元のケーブルテレビ局に、“ニュー潮風”がインチキであることをリークしようとします。なぜ葉子が“ニュー潮風”ニセモノロボットと気付くのかというきっかけのシーンも可笑しかったです。
 加えて局のキャスターの対応が傑作でした。ロボットの中に人が入っているなんて、そんな馬鹿げたことが本当なら、既に話題になっているはず。余りに馬鹿馬鹿しくて、誰も信じないのではというのです。どうもこのキャスターのいうとおり、誰もがあり得ないと勝手に思い込んてしまったことが、“ニュー潮風”の延命に繋がっていたのですね。

 しかし、葉子の執念の証拠固めもあって、“ニュー潮風”がインチキではないかという風評が拡がります。木村電器は疑惑を晴らすために釈明会見を開催することに。会見ではキャスターの鋭い追及に答えられない開発チームは、今度こそ絶体絶命のピンチに陥ります。会場に駆けつける葉子の機転も手伝い、この危機から鈴木はどうバレずに切りぬけたのか、矢口監督の演出が冴えるラストシーンは必見です。
 それにしても懲りないのは開発チームの面々。葉子がチームに参加することで、正真正銘の“ニュー潮風”の開発に成功するものの、またしても不注意でロボット博の直前に開発した新型ロボットを壊してしまいます。
 となると…、次のシーンでは当然の如く、葉子も加わった開発チームの面々は、鈴木の自宅のベルを鳴らすのでした。どうやら話は、次回作に続きそうですね。

 200人のリアル老人からオーディションで選ばれたのは、五十嵐信次郎ことミッキー・カーチス。彼はこの作品を機に新たな芸名を付けたそうです。五十嵐が演じる鈴木は、時間を持て余し、怒りっぽく身勝手で、娘や孫からも疎まれている点で、ある種の「じいさん」の典型といえる存在といえるでしょう。頑固さを湛える風貌は鈴木役にドンピシャリでしたね。
 そんな鈴木が最後には鮮やかな活躍を見せ、自身も生きがいを取り戻すことが、本作のキモに当たります。高齢者の観客には、拍手喝采ものとなることでしょう。どっちかというと「ロボ」よりも、「ジー」がテーマだったのです。

 日常の鈴木の所作も、どことなく“ニュー潮風”に似させる演じ方が上手かったです。主題歌も担当していて、なかなか味わいのある曲を聴かせてくれました。また葉子役の吉高由里子は、物語を小気味よくかき回して、コメディーとしての濃い味をよく出してくれました。加えて脇は、田畑智子や田辺誠一など矢口組の演技達者な常連俳優陣がしっかりサポート。息の合った芝居を見せてくれました。

 最先端の現役ロボットも多数登場するロボット業界ネタ映画としても楽しめる本作。ロボットの敷居がグッと低くなるこの作品を見て、将来は自分も開発者になろうと考えるちびっ子が沢山出てくれば、日本の将来ももっと明るく変えられることでしょう。

流山の小地蔵