「誰かが声をあげなきゃいけない事」ロラックスおじさんの秘密の種 思いついたら変えますさんの映画レビュー(感想・評価)
誰かが声をあげなきゃいけない事
Dr.スースという方は、海外の映画レビュアーさんの口から名前だけは知っていましたが、日本ではやや馴染みの薄い作家さんですね。とは言え児童文学界では世界的な巨匠だそうで、アメリカでは今でも定番の絵本がいくつもあるみたい。キャットインザハットやグリンチなど、絵を見れば「ああ、あの!」となる人はいそうです。
そのクラシックな作品に端を発した映画ということで、環境保護のメッセージがかなりどストレートに前に出ており、知らないで観てた僕は少し面食らいました。
しかしですよ。そもそも、正しい事を言うのに最近の我々人類は恥じらいがありすぎるんじゃないでしょうか。少なくとも本作のテーマは思想に大きく左右されるようなものではなく、常に発展の鏡写しとして普遍性があるものです。耳触りの良い、エンタメ全振りの作品が絶賛されまくる昨今(僕も好物だけどさ)、こういう愚直な教育アニメちょっとぐらいあっていいじゃん、むしろ映画館でコレやれるなら人類まだ捨てたもんじゃないじゃんと直ぐに思い直しました。というのもこの映画自体、面白みの演出に手を抜いてないからです。恐らく絵本の売りであったであろう、町並みや自然のユニークな造形や色彩が常にプッシュされています。主人公のあのスクーターは可愛らしくもワクワクするし、不思議な木も絵の筆致がそのまま立体になったような魅力があります。敵も味方も、それなりに惹かれるキャラクター形成をしており、性格付けに無理を感じるようなこともありません。
加えて個人的な評価として、日本語版のキャスティングが絶妙だったと感じてます。トータス松本ってあんなに豊かな芝居できるんだ...ちゃんとジジイモードと演じ分けてるし。挿入歌の聴きごたえやべえし(アルバムあるなら欲しいぞ)。
志村けんさんも冒頭の挨拶こそ「素じゃん...」ってなったけど、だんだんと柔かくも頑固な森の賢人という風格がシンクロしてきて「え、すご」と素直に感心。何たって志村さんにはパン君という心の家族がいますからね。自然の味方をする妖精なんて、自然と感情が乗っかったかもしれません。
声優陣も聞き心地が良い人を取り揃えてますね。おむすびまんでお馴染み京田尚子さんのおばあちゃんボイスはいつ聞いても最高です(京田さんの名前は知らなくても、あの声に触れずに育った映画好きは少ないでしょう)。
要するに説教臭いと忌避されがちなテーマを包み隠さず、その分目と耳を存分に楽しませてくれる誠実な優等生映画。ドラマの抑揚がそこまで強い訳でもないにもかかわらず、途中でイヤになる事もなく視聴後の気分もスッキリポカポカといった塩梅。好感高いです。