「作風がボンド寄りになってしまった」ボーン・レガシー マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
作風がボンド寄りになってしまった
「ボーン・アルティメイタム」の新聞記者サイモン・ロスが暗殺されたシーンから、うまく極秘プログラム〈アウトカム計画〉に結びつけている。脚本が相変わらず巧い。
ジェイソン・ボーンが登場しなくても、シリーズとして話が繋がっている。むしろシリーズを観ていないと、話の面白さが半減してしまう。
今回の主人公はアウトカム計画によって造り上げられた暗殺者アーロン・クロスだ。独りアラスカで鍛錬中のクロスが、服用中の薬を取りに険しい冬山を越える冒頭を見ただけで、彼が只者ではないことが充分すぎるぐらい分かる。
マット・デイモン同様、決して男前ではないジェレミー・レナーをクロスに抜擢したのは正解だ。ただ、ジェレミー・レナーは作品を重ねるごとに野性味が薄れており、徐々に知的なムードが出始めてお行儀がよくなってきている。暗殺者としての過去を振り払おうともがくボーンの方が、行動にがむしゃらなところがあり、感情移入しやすい。命を懸けることに快感を覚えるほどの異状さを描写した「ハート・ロッカー」(09)の頃までジェレミー・レナーを戻して欲しかったが、できあがった人物像はダニエル・クレイグのボンドに近い。
そして今作は、身勝手にも、またもや計画を中断したCIA中枢部による抹殺作戦から逃れ、必要な薬を巡って女性科学者のシェアリング博士を巻き込み、CIAとの世界を股にかけた攻防というのが筋書きだ。
レイチェル・ワイズのヌード・シーンがなかったのは、硬派のシリーズとしてこれまた正解だが、女優陣を控え目ながら印象に残る演出を続けてきた前3作に比べると、クロスとシェアリングの絡みはやはりボンド・シリーズのような甘さが漂う。
マニラでのバイクによるチェイスも途中までは面白いが、目が慣れてくる後半は少しダレる。
エンディングもこれまでのような余韻を残す粋な終わり方ではなく、やはりボンド的でウキウキ気分だ。
トニー・ギルロイは脚本は巧いが、監督としては見せ方の演出に於いて少し物足りなさを感じる。
決してつまらないわけではない。むしろ面白い。ただ前3作(とくに2作目と3作目)のデキがあまりに良かったのと、作風が気に入っていただけについ辛口になってしまう。
「ボーン・アイデンティティ」のことを思えば、次作以降の流れによってはこの作品の価値観も変わっていくだろう。
希望としてはポール・グリーングラス監督とマット・デイモンに帰ってきてほしい。もしボーンとクロスが遭遇したらどうなるのか、それはそれで興味がある。