「過去作が遺産だった。」ボーン・レガシー 孤独な象さんの映画レビュー(感想・評価)
過去作が遺産だった。
アルティメイタムとリンクし、出演者もカメオ的にではあるが登場、単なるスピンオフに留まらない作品になる予定だったのだろうが、蓋をあけて見れば上澄みを掬った、どこにでもあるアクション映画になってしまっている。アイデンティティーから心酔しきっていて、アルティメイタムから5年、予告を初めて見つけたと時は、思わず奇声を挙げるほど歓喜した分、私個人としては落胆も更に大きかった。今となっては、あの頃の情熱を持つ事が出来ただけでも幸いと思うべきか。
無駄に助長したシーンの連続で、テンポが悪く、退屈な135分を迎えることになる。薬やウィルスといった眉唾モノの設定をやたらと物語の中心に据えようとするので、本来ボーンシリーズが持っていた地続き感が損なわれ、過去シリーズで判明しなかった点をクローズアップさせようとしたことが、蛇足を無理矢理見させられる思いがして、自分は一体今何を見ているのかという気分にさせられる。冒頭から意味不明な訓練シーンやアラスカでのシークエンスも同様で、日常のすぐそばで起きているような空気は失われ、どこかで見たような、何かで感じたような既視感だけが存在する。そしてそれは決して気持ちのよいものではない。
正直、見せ場はyoutubeの予告で十分であり、それ以上を望むことはできない。過去作では、結果のための手段を講じているというギミックやボーンのアクションが物語の進行に絶妙なシンクロを果たし、視聴者を決して飽きさせない試みを投じることで、007はもちろん、多くのフォロワーを作るほどのクオリティに昇華させていたが、さぁ、次はこういう風に見せるよ、と言わんばかりの体たらくぶり。劇場内で何度ため息をついたことか。特にひどかったのはラストのバイクチェイスで、ルイ・オザワの残念感はどうしようもなく、ターミネーター3で女性型を出してしまった、あの失敗臭がプンプンと漂う。本人の努力や演技以前に作品から完全に異物として浮いてしまっている。エドワート・ノートンが秘密兵器を出せ的な流れで結末があれでは、殆ど触れなかったことで成功したやってはいけないジョークやギャグに近い印象を受けざるを得ない。
救いと災いが共存するレイチェル・ワイズ。40歳を超えてもなお、美しく画面映えするのだが、制作者側は何故今までシリーズに典型的な美女を登場させなかったのかを理解していないようだ。女優としての力量は問題ないが、明らかなミスキャスト。
Extreme Waysが悲しく流れる中、ありきたりな次作への伏線が物悲しい。今作でボーンシリーズはタイトル通りの“遺産”になってしまったのだろうか。望むべくはデイモン、グリーングラスコンビの復活が恥の上塗りにならないよう期待するばかりだ。