スノーホワイト : 映画評論・批評
2012年6月5日更新
2012年6月15日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
絶妙のバランスで配合された「指輪物語」と「グリム童話」の世界観
「ロード・オブ・ザ・リング」をどう超えるか。同作以降、すべての叙事詩映画、神話映画が直面せざるを得ないこのハードルに、本作は果敢に挑んでいる。
そのための“技”が、相反する要素を掛け合わせることと、その際の“微妙なバランス”だ。そのバランスは、まるで化学実験のような綿密さで設計されている。「ロード・オブ・ザ・リング」系の写実的中世社会に、「グリム童話」の呪術的世界観を配合するとき、どの分量なら望んだ通りの化学反応が生まれるのか。そんな配合バランスの妙が、画面の隅々まで行き渡っている。
端的な例がフェアリー(妖精)の造型だ。その容貌には、愛らしさ、奇妙さ、恐ろしさが絶妙のバランスで配合されている。鳩たちがヒロインのために動くというおとぎ話要素には、それは鳩がフェアリーに操られているからという現実的要素が配合される。シャーリーズ・セロン演じる女王の圧倒的な美しさには、ごく微量の脆さが配合される。人々の善意には、それぞれある分量の失意が加えられ、完璧な善人はいない。“黒い森”という呪術アイテムが恐しいのは、異形の怪物が出現するからではなく、樹木の影が自分の対面したくない何かに見えてしまうからなのだ。
監督は英国出身、端整な映像美のCMで知られるルパート・サンダース。次回作にはSFを企画中とのことだが、好きなSF映画に「ブレードランナー」と並べてタルコフスキーの「ストーカー」を挙げるあたりにも、この監督の志向性が感じられる。
(平沢薫)