少年と自転車 : 映画評論・批評
2012年3月19日更新
2012年3月31日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
私たちの現実的な生き方そのものが、この映画では問われている
タイトルからは少年の物語だと誰もが予想するだろう。そして確かに、そこでは少年の物語が語られていく。父親から見捨てられ、「孤児」となるしかなかった少年の。しかしそれは一方で、その少年と関わる大人たちの物語でもある。彼の父親や里親となる女性はもちろん、この映画を見る私たちの物語ということでもある。
想像を絶する過酷な境遇を生きる少年は、それゆえ極端な行動に出る。それは常に大人たちを困惑させる。大人たちはいらだち、我慢し、怒り、次第にその感情を露にしたりもする。子どもに付き合っているうちに大人たちも子どもになる。あるいは、その子どもっぽさに耐えられず、徹底して大人になろうとする大人もいる。人間の成長とは一体どういうことなのかとも思う。
とはいえ少年の行動はそれでもどこか常軌を逸している。この世界で生きることの限界の先へと、自らを導いているようでもある。その過酷さ、過剰さにどうやって付き合うか。つまりコントロール不能の「自然」に対してどのように対応して、私たちの社会や人生を作っていくか。そんな私たちの現実的な生き方そのものが、この映画では問われているように思う。自分の人生を生きるのが自分でしかないように、この映画の物語もまた、私たち自身が作り上げていく。そんな映画だ。楽しい映画ではないが、濃密な時間を過ごすことができる。
(樋口泰人)