「山本五十六の人物像を丁寧に描いた」聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5山本五十六の人物像を丁寧に描いた

2011年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

普段は温厚で思慮深い山本五十六だが、日米開戦が避けられないとなるや、誰も思いつかない大胆な作戦で一気に米軍艦隊の能力を削ぎ落とす手に出る。
これはアメリカを叩きのめすためと軍部も国民も思うばかりで、実は講和を有利にするための手立てだったと理解する者が軍令部にいなかった。
日本が優勢のうちに講和に持っていく、そのための奇襲攻撃が闇討ちであってはならない。ところがアメリカへの宣戦布告は間に合わず、結果として、眠れる虎を起こしてしまうことになる。

この作品は、開戦に至るまでを新聞記者の五十六へのインタビューという形で語っていく。玉木宏演じる記者が日本戦史の語り部となる設定は、これまでにないアイデアで悪くない。
ただ、真珠湾奇襲攻撃からミッドウェー海戦までの、半年という時間的な流れが判然としない。
五十六と家族の食事の光景など丁寧に作られているのだが、まるで予備知識がないと、戦局の移り変わりと時間の関係がまるで分からないのではないか。

真珠湾攻撃に至る日米の動きは「トラ・トラ・トラ」(1970/日・米合作)が事細かい。
連合艦隊が択捉島の単冠湾に集結するまでを描いたNHKドラマ「エトロフ遥かなり」(1993)も興味深い内容だった。
また、今作ではミッドウェー海戦の失敗につながる暗号の漏洩などに触れられておらず、「ミッドウェー」(1976/米)が参考になる。
この「トラ・トラ・トラ」と「ミッドウェー」を観ていれば、二大作戦の背景が理解しやすい上、今作が五十六の人物像を丁寧に描いていることが分かる。
なお、上記2作の山本五十六は、山村聰と三船敏郎がそれぞれ演じている。

五十六に関しては、今回の役所広司がいちばん人間味が出ていて好きだ。

今なお戦略家として知られ、神格化した存在だが、五十六の新しいものを見る目、世界を広く見る目を、存命中に受け止めることができる組織がなかったことが残念だ。
世界の中で日本という国がどうあるべきか、70年経った今なお、舵取りがでたらめな日本を五十六はどういう目で見ているのだろうか。

p.s. この映画、最初のキャッチコピーは「誰よりも、開戦に反対した男がいた。」だった。つまり、山本五十六の人物像を通して、日米が開戦に至る顛末を描いた作品ということだ。ところが、公開間際になると、「総員出撃」「戦争スペクタクル」の文字が踊る。なんだか、作り手と事務方の間に、五十六と軍令部にあったような思惑の違いを感じてしまうのだが・・・。

マスター@だんだん