「実直に、真摯に、そして丁寧に描く姿勢に好感が持てる良作。」聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実 sigeさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5実直に、真摯に、そして丁寧に描く姿勢に好感が持てる良作。

2011年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

好みが分かれる映画であることは間違いないでしょう。
途中退席する人や見終わった後、あくびをする人が多かったです。

2時間半の上映時間をひたすら丁寧に、丁寧に
山本五十六の人物像を描いています。
「孤高のメス」の監督と言われれば納得です。
この作品の対極にあるのはおそらく「男たちの大和 YAMATO」でしょう。
雑誌のレビューで
“情にも訴えず、高揚感もなく、戦後生まれのスタッフが描いたドキュメンタリーのような作風。現代映画の潮流ならば致し方なし”と
評されていましたが、
観客の情に訴えまくった「二百三高地」や「連合艦隊」とは異なるアプローチをとった監督に
逆に拍手を送りたい。

たしかに高揚感には欠けるのは事実です。
誰もが唸った、あの「パール・ハーバー」の零戦ドッグファイトに匹敵するほどの
画を時折見せながらも、ただただ客観的に描き、
私も少々拍子抜けしてしまいました。

それでも登場人物の誰一人としてぞんざいに扱わなかったことも好感が持てます。

“水まんじゅうにぶっかける砂糖”、“干し柿”、
“鯛”、“少女のリボン”、“将棋”など
これらの細かな小道具は
山本五十六の人格を形作る良いエピソードでした。
逆に“本当にここまでの人格者であったのか?”と
疑ってしまったくらいです。

その中でも秀逸なのが、
水まんじゅうを食べたあとの山本五十六の一言。
“うんめいぃ”。
このシーンは役所広司でなければ成り立ちません。
これが三船敏郎ならば猛々しくて
周りは逆にビビっていたのでは!?
一番印象に残るシーンでした。

学生時代よりNHKの「映像の世紀」などが好きで
太平洋戦争については少々の知識があったのですが、
それでも狂言回しの玉木宏の解説により
太平洋戦争について分かりやすく丁寧に説明されていました。
この辺は「レッドクリフ」と同じ感覚で観にいけます。

役所さんが
“最近は終戦日すら分からない人が増えてきている。ましてや開戦日など覚えている人が日本にどれだけいるのか・・・。”と
言われていましたが、
日本史の授業で
教科書数ページでしか読んだことがない10代、20代の方には
太平洋戦争入門編としてぜひ勧めたいと思います。

最後に、
図らずも2011年は太平洋戦争と同じくらいの大局を迎える年となりました。
国難に対して己が大義で行動する軍人が
今の政局とダブって見えてしまうのは何とも寂しい限り。
制作サイドの意図がないとは言い切れませんが、
それでも当時と異なるのは
山本五十六のようなカリスマがいないことは事実・・・と、
一抹の不安を感じつつ、劇場を後にしました。

sige