劇場公開日 2011年10月15日

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「こんなデンジャラスなステイサムは見たことがない!」ブリッツ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0こんなデンジャラスなステイサムは見たことがない!

2011年10月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 これまでは、精密な知謀に満ちた殺し屋や運び屋役というのがステイサムの役どころ。だから肉体派俳優でありながら、クールでストイックなイメージがつきまといました。
 ところがどうでしょう。本作では、ガラリとイメチェンし、見るからにデンジャラスで正義に向かって猪突猛進する荒くれ刑事をこなしているではありませんか。
 新たな見せ方を、いつものだみ声で演じるステイサムの魅力たっぷりの作品。犯行を予告して警官を殺していく、激情型の犯人と息詰まる駆け引き合戦。さらに小癪に、証拠不足で釈放された犯人に対する、予想不可能な主人公の復讐方法など、変化に富んだストーリーに大満足しました。

 プロデュースにも参加し、脚本にもいろいろ意見したというくらい、ステイサムは本作に入れ込んで参加したようです。その目指すところは、役の幅を拡げたい一念だったのでしょう。
 その狙いは、冒頭から炸裂します。自分の車を奪おうとした少年不良グループを、ホッケースティックで滅多打ちにしてしまいます。その容赦なさは刑事の片鱗も感じまさせん。一時が万事こんな感じだから、主人公の刑事ブラントは、以前の逮捕劇でも、犯人に過激な暴力をふるった罪を問われて、自宅謹慎中でした。
 ある日巡回中の女性警官が射殺されます。身内を殺される警察の失態を、これ見よがしに新聞は叩くのでした。非常事態に、検挙率No.1の実力を誇るブラントも捜査に狩り出されます。
 不敵にも犯人は、ブラントの暴力を追及してきた新聞記者に自らの犯行予告を売りこみ、カネに替えようとします。しかし、なぜ警官ばかり殺そうとするのか、その理由は明かされません。犯人のディテールも明かさず、第二、第三の犯行に突き進んでいくミステリアスな展開は、好奇心をそそられました。
 ブリッツと名乗る犯人の呼称は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツがイギリスを襲ったロンドン大空襲を指す言葉。ロンドン市民には、恐怖の記憶として刻み込まれています。
 ブリッツの外見は、風変わりな衣装に、警察犬を焼き殺し、マイケル・ジャクソンの排泄物を保管するなどクレイジーな面が目立ちます。しかし、犯行においては用意周到に、街頭カメラの位置など調べ上げて、決して証拠となるものを遺さない緻密な頭脳で、警察を手玉に取っていたのでした。

 一方休暇中のロバート警部に代わって指揮を執ったのが、ナッシュ。ゲイというだけで署内で差別されてきた性癖の持ち主なんです。それが元で、犯人逮捕時に感情的に暴力をふるってしまったことで、ブラントの分署に飛ばされてきたのでした。ナッシュのキレた過去に共感したブラントは、お互い相棒となってブリッツを追い詰めていきます。暴力刑事にゲイという奇妙なバディではありますが、ナッシュの知能がうまくブラントを制御して、名コンビぶりを発揮するようになっています。不思議なことはブラントが余りに暴力的なので、ナッシュのオカマっぽいところが次第に気にならなくなり良識派刑事になっていくことです。
 ブラントのあくどさは、情報屋のラドナーを脅して、金を払わず情報を聞き出すばかりか、待ち合わせに使ったカフェの飲食代まで払わせてしまうほどでした。このシーンステイサムが演じると、ちょっとユーモラスなんですね。

 ついにブリッツは、ダンロップに犯行声明を連絡した上、ブラントの親友・ロバート警部を惨殺します。一見愉快犯に見栄がちなブリッツの犯行動機も、ブラントの親友・ロバート警部を惨殺された時点で、殺された警察官たちと容疑者ワイス(ブリッツ)との関連性を見出します。ブリッツは自分を逮捕した警官全員を襲っているのでした。
 そして婦人警官フォールズが次の順番の筈だとフォールズの自宅へ急行します。
 一方ダンロップは事件の原因にブラントの暴力があったことをかき立て攻撃します。

 フォールズは、彼女の隠し子らしい少年が身代わりになることで、ブリッツの魔の手から間一髪逃れます。このあと麻薬漬けになってしまうのです。その後の顛末が描かれず、やや不満に思えました。彼女にも復讐に立ち上がって欲しかったです。

 このあとブリッツは逮捕されて、釈放。ラストのドンデン返しに繋がっていきます。
結末の落とし方は、道義的には疑問を感じます。でも映画的には面白い展開。それに、ブラントが語る理屈の付け方が、なるほどと思わせてくれました。

 劇中を通し強面のブラントではありましたが、本当は気の優しい男なのかもしれません。相棒へのナッシュに対する同情に近い感情や、麻薬に溺れたフォールズを立ち直らせようとするところなど、とても鬼刑事一辺倒の所業ではありません。そんな二面性が本作の主人公のいい持ち味なんだと感じられました。

 ラストシーンで、散々ブラントをいたぶる記事を書いたダンロップに、二匹の猛犬が放たれるところが小気味よかったです。報道する側の負の側面も同時に明かさせる伏線もご注目を!

流山の小地蔵