「やさしさに満ちていて、最後までさわやかだが…」とある飛空士への追憶 aotokageさんの映画レビュー(感想・評価)
やさしさに満ちていて、最後までさわやかだが…
犬村小六の恋と空戦の人気小説を、新鋭・宍戸淳監督の下、「時かけ」「サマーウォーズ」の奥寺佐渡子の脚本で、スタジオ・マッドハウスがアニメ化した。
一方の主役である飛空機。襲いかかる空飛ぶ巨大戦艦がラピュタやハウルのような異世界ファンタジー的メカなのに対し、主人公たちの乗る新型複座式水上偵察機サンタ・クルスは、海水から無限に補給できる水素電池を動力源にしてるものの外観は第二次大戦時のプロペラ機。
敵方の無敵の戦闘飛空機・真電に至っては日本海軍の震電そのもので、パラレルワールドのような奇妙な世界を創る。
戦術的にはもっと工夫してほしいが、3DCGの空中戦などのアクションシーンもかっこよく、雲塊の漂う大空や休息中に見上げる満天の星空、見渡す限りのお花畑など背景も美しい。
最初、パイロットとしての技術が優れているとはいえ、ベスタド(混血児)として差別される傭兵部隊の飛空士シャルルに、将来の皇妃のファナを送り届けるという重大な任務を委ねることが疑問で、裏があるのではと気になってしまった。
原作ではちゃんと納得できる理由があげられているらしい。彼らは宗教上、結婚前には男女関係を結ばないとか…。
キャラクターデザインも新エヴァなどを手がけた松原秀典が担当し、シャルルもファナも画的には魅力あるのだが、シャルルは傭兵なのに紳士的すぎるし、ヒロインである公爵の娘ファナもすいませんを度々口にして、貴族の令嬢にしては腰が低すぎてお嬢様オーラがない。
そのため、シャルルとファナの関係が淡白で、二人の間に封建的な身分もあまり感じられない。
これも原作では子供のときには快活だったのが、成長するに従って自らの境遇に思い悩みしだいに心を閉ざしていくようすが書かれているという。
それに子供のころのシャルルも少し関わってたことで、冒険飛行を通じてファナが昔の自分を取り戻し、シャルルと結びつく伏線でもあるのだけれど…。
ファナの心境の変化もお酒のせいにもみえるし、唐突に思えてしまった。
尺が短い映画で、いろいろと説明不足になってしまってるのは、画が綺麗なだけに残念だ。
ちょっと意地悪な奴はいるものの全体的にはやさしさに満ちていて、最後までさわやかだった。そこも少し物足りない。