「『切腹』ならぬ不服←ちょっと上手いこと言った。オリジナルには叶わなかったかなぁ。」一命 野球十兵衛、さんの映画レビュー(感想・評価)
『切腹』ならぬ不服←ちょっと上手いこと言った。オリジナルには叶わなかったかなぁ。
本作ね、結論から述べると、オリジナルの『切腹』と比べて、かなり不満の残る作品でした。
いくつか理由があるんですが。
まず、勘解由が根っからの悪人として描かれていなかったので、鬼畜っぷりがいまひとつだったんですよね。
だからラストのカタルシスが、かなり物足りなかったと感じました。
本作での勘解由は、えげつない彦九郎を突き飛ばして、苦悶の求女に介錯の一太刀を振るって絶命させてあげたんですね。ここ、オリジナルにはなかったシーンです。
半四郎に対しても「悪いことは言わん」と切腹を思いとどまらせようとしていましたし。
半四郎の元へ、求女が命と引き換えに頼み込んだ三両の金子も届けていたし。役所さん、ちょっといい人っぽい。
加えて、半四郎に追い詰められていく心理戦が、淡泊すぎたかな?と思いました。
代わりに半四郎が求女の身を預かるに至った経緯が映像で子細に描かれていました。ここ、いらなかったかなぁ…。幕府の理不尽な御沙汰と、それに対する半四郎の無念、求女の窮状を描くにしても、ここは語りであっさりと流してもよかったような気がして。
そして、お白洲での半四郎の声色が怒り一辺倒の一本調子で、感情の抑揚に欠けていたと思ったの。
オリジナルでは、不気味だったり、不敵だったりの笑みがあったのに。そこがおどろおどろしい見どころだったのに。
おどろおどろしさと言えば、最大の見せ場、求女の切腹シーン。
どういうわけか、カラーよりも白黒の黒い血の色の方が残酷に見えたんですよ。
また、白黒の方が、各々の俳優さんの表情が鬼気迫って見えました。
海老蔵さん、瑛大さん、満島さん、結構頑張っていらっしゃったんですが。
彦九郎を始めとする介錯人、三名との果し合いも、ひとりずつ髷を切ったのではなく、まとめての対決だったから、あっさりしすぎていたし。
彦九郎との決闘は、もっと丁寧に見せてほしかったです。
余談ですが、オリジナルの『切腹』では、仲代さんと丹波さん、模擬刀ではなく真剣を使われたそうで。だから、あれだけ本気の迫力があったのは想像に難くなく。
何よりもラストの大立ち回りで、半四郎が切腹せずに斬り合いで果てたことが、大きく興を削いだと感じたの。
あそこは『切腹』のタイトルを付けるにあたって、重要なシーンだったでしょ。半四郎の“武士としての面目”を立てるシーンだったでしょ。
逆に彦九郎他二名の介錯人は、きっちりと自分で腹かっさばいていたし。むしろ井伊家の方が面目を保ったように見えてしまって。
肝心の殺陣も綺麗にまとまりすぎていたように思います。
オリジナルでの、腰を深く落として両腕を大きく開いた「八相の構え」に迫力があったのに。
戦国の世を戦い抜いた喧嘩殺法が見ものだったのに。
音楽も綺麗すぎたかなぁ。
ただね、半四郎が竹光で戦ったのは、意外だったし評価しているです。←何様?
求女の意趣返し、武士が真剣で斬られる以上の辱めを与えていたところは痛快でした。
キャスティングについてもさほど不満は感じなかったんですが。
総じて、どうしてもオリジナルとの比較に終始してしまいました。
それがなければ、一本の作品として、評価がもっと違ったのかもしれませんが。
狙った描き方がオリジナルとは違うポイントにあったのかな?