「幽霊たち」ゴーストライター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
幽霊たち
レンタル開始直前だったが何故か最寄りの映画館で上映を開始していたので、
『観るならやっぱ映画館で!』と鑑賞。
英国首相の自伝を書く事となったゴーストライターが、
前任のゴーストライターの死の謎に迫る内、恐ろしい陰謀に気付いてしまう……というサスペンス映画。
他の方々の絶賛も頷ける、上質なサスペンスでした。
(恐らくは)好奇心から謎を追い、自らを危険な状況に晒してゆく主人公は、
一連のドラマの登場人物というより、
事件の真相を暴き出し、その無慈悲さを観客に示す為のナビゲイターとして作用している。
これは市川崑監督の『金田一耕助』シリーズにおける、
金田一耕助の立ち位置に少し似てる気がする。
彼は決して事件を未然には防げない。
第三者の視点から事件を俯瞰し、どろどろと渦巻く因縁を暴露して、颯爽と姿を消す。
市川崑はそんな金田一を『天使のような存在』と解釈していたという。
天使と幽霊。
さてさて本作、中盤の展開が特に絶品だ。
『前任者はどうやって死んだ?』という事件の余白を、
観客の想像力がいつの間にか埋めているのだ。
正確には、作り手によってそう仕向けられている。
主人公が『死人と同じ道を辿っている』とは台詞にも出さず、不安と焦燥を煽るこの巧みさ!
鈍色の空と海、止まない風、舞う枯葉、しとしと降り続ける雨、まばらな人影。
観ているだけで底冷えしそうな空気感も堪らない。
風景だけではない。突き放したように淡白な描写も冷たく恐ろしい。
一定の距離を保ちつつ主人公を尾ける追跡者。
子を亡くした親の怒りすら巧みに利用する残酷な知性……。
事件を操る人物こそ登場するが、更にその背景にいる黒幕には表情(かお)が無い。
希薄な毒ガスのように、目には見えないが確かに作品全体を覆っている。
幽霊あるいは、一種の神のようだ。それも、とびきり冷酷な。
この映画、前述の“事件を操る人物”は恐らく途中で読めてしまうだろう。
だがそれでも目はスクリーンに釘付けだ。心臓も確実に脈拍を上げていた。
使い古された展開も、調理の腕によって一級のサスペンスに成り得る。
ドンデン返しばかりがサスペンスじゃないんだぜ、と余裕たっぷりに言われているかのようだ。
僕はポランスキー監督作品を沢山観ている訳では無いけど、
あぁやっぱ名匠と言われるだけありますなぁと妙な上から目線で考えた(笑)。
以上! 今回のレビュー終わり!
<2012/1/8鑑賞>