「元首相は妻の秘密を知っていたのか最後まで確信を持てなかったが…」ゴーストライター KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
元首相は妻の秘密を知っていたのか最後まで確信を持てなかったが…
ポランスキー作品鑑賞の一環で、
「水の中のナイフ」「反撥」「袋小路」
の初期作品に続いて鑑賞したが、
やはり若い頃の作品とは一線を画して、
演出力の進歩を感じさせる作品ではあった。
しかも、キネマ旬報では
第一位という高評価だ。
最初の鑑賞では、誰が嘘を重ねているのか
分からず、ラストの衝撃の真実を受け止める
ことが出来なかったが、
2度目の鑑賞でようやく少し整理が
出来たものの、頭は混乱したままだ。
真実の解明とゴーストライターの死の描写が
見事なラストシーンではあるが、
理解出来ない幾つかの設定が気になった。
まず、ラストシーンの、謎の解明と
2人の心理効果的盛り上がりを狙った伏線
だとしても、愛に飢えいるだけかのように
描かれる元首相の妻が、
実はCIA局員であるとの匂わしの振る舞いが
全く無い設定が。
また、主人公が殺されるラストシーンは、
書類の散乱だけで見せる見事な演出ながら、
あまりに素早過ぎて不自然に感じる
タイミングが。
作品手法としてそれらを良しとしても、
私が最後までに解らなかったのが、
果たして元首相は妻がCIA局員であることを
知っていたのか知らなかったのか、
との点だ。
もし知っているのだとしたら、
この映画での彼の言動は全て嘘で
大学演劇部で培った演技力の賜物と思われる
各描写は、妻の振る舞いと共々、
この元首相夫妻について本当のことは
何も描かれていないことになり、
そもそもが知ってる知らないについて
観客が判断のしようが無くなりそうだし、
もし本人が知らなかったとしたら、
そんな中で総理まで登り詰めることなんて
可能なのだろうかとの疑問が残った。
映画の中では、
その両面の可能性が示唆されているが、
元首相は後でそのことを知ったことから、
実は結婚そのものがCIAに利用されている
ことと理解して、
妻との関係が冷えたと想像出来なくも無い。
また、狙撃の腕の良すぎる暗殺者も、
実は用無しになったものの
秘密を握っていた元首相を暗殺すべく
CIAから差し向けられた人物なのか、
私には分からないことだらけだ。
サスペンス的要素から
最後まで集中はさせてくれたが、
私的には幾つかの不明な要素も多く、
2回の鑑賞でも疑問が残ったままだ。
これらの点において、
ポランスキー監督の設定はどうだったのか
知りたいところだ。