劇場公開日 2011年12月17日

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「サラの関係者が思わず涙ぐむラストのワンシーンが感動的。そこ1点のためにあるような作品。」サラの鍵 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5サラの関係者が思わず涙ぐむラストのワンシーンが感動的。そこ1点のためにあるような作品。

2011年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ミッション:インポッシブルのプレミアム試写会を飛ばしてまで、こちらを選んだくらい生き込んで出かけた試写会となりました。サラの関係者が思わず涙ぐむラストのワンシーンが感動的で、納得の一本となりました。全ては、そのシーンのために組み立てられたような作品なのです。
 ユダヤ人収容所を描いた作品で子供が主人公のものでは、「縞模様のパジャマの少年」が名作としてお奨めです。同作も含めて収容所モノは、収容されてガス室に送られるところで終わりを迎えるのが普通でしょう。しかし、本作では主人公のサラが収容所を逃亡したあとが長く語れるところが違っています。

 またサラの逃亡後の行方を、現代の視点でストーリーテラーとなって追いかけていく女性記者ジュリアの物語にもなっているところが、他の単なる収容所モノと大きく異なるところです。
 ジュリアが高齢出産を決意するまでの現代の話とサラのその後が巧みにリンクしているところがよかったです。サラが収容所に行き着くまでは、とても重く、心が痛む映像が続きます。しかし、時々現代にスイッチすることで、いい息抜きとなっていました。現代と大戦当時のスイッチの仕方がいいバランスなんですね。
 サラの悲劇を知ったジュリアがいのちの尊さを強く感じて、夫の反対を押し切って、高齢出産に望むストーリーは、同じような悩みを持っている女性にとって救いとなるストーリーではないかと思います。産もうか降ろすか悩んでいる人が居たら、勇気と愛情がこみ上げてくる作品なので、ぜひ鑑賞をお勧めします。

 さて、舞台は1942年、ナチス占領下のパリで起きたユダヤ人迫害事件。なぜナチでなくフランス警察がユダヤ人を率先して検挙したのか、本作を見るまでは半信半疑でした。でも、捕まったユダヤ人に罵声を浴びせる市中のフランス人を見せつけられて、相当にユダヤ人に対して、経済的な嫉妬心を持っていたことが理解できました。それで当時のフランス人は、ユダヤ人のジェノサイドを支持したようなのです。
 けれども収容されたサラが逃走するとき恩情で見逃す青年将校や、サラを匿う農夫一家の存在にフランス人に人権擁護の善意は失せていないことも感じました。フランス人のユダヤ人に対する複雑な思いは後に迫害への加担を認めた大統領演説で落着します。でも今なおフランス国民の心の傷は癒えることがないようです。

 但しストーリーは、現代でジュリアがユダヤ人迫害事件を特集企画して、当時の遺構を取材して廻るところから始まります。その取材過程で、ジュリアはサラというユダヤ人女性の存在を知ることになるのです。
 2人の接点はパリのアパート。ジュリアのフランス人の夫が祖母から譲り受けた部屋のかつての住人はユダヤ人家族だったことが偶然わかるのです。一斉検挙の際、姉のサラはとっさに弟を納戸に隠しその鍵を握りしめたまま収容所へ。そして現代。ジュリアはその後のサラと弟の足跡を克明に追うことになります。
 ジュリアの取材が進むごとに、サラの消息が明かになっていきました。

 ジュリアがとりつかれたように、サラの消息の確認にのめり込んでいったのは、その「真実の追求」がフランス国民の共通の心の傷に迫ることに繋がるからだったのでしょう。そして、次第にサラの気持ちに同化していったジュリアは、弟の足跡を確かめずに居られなくなったのです。
 けれども、その謎の当事者として夫の実家が、連行されたサラの一家の部屋にその後引っ越した事実を掴んだジュリアは、夫の親族に対する疑惑の眼差しを向けてしまいます。
 真実の追求は常に苦痛と恐怖を伴うもの。でも、ジュリアにとって歴史の中に真実を葬り去るわけにはいかなかったのです。それがたとえ夫婦関係が破綻を招こうとも本当のことを知ろうと、夫の実家に体当たりしていきます。
 一方、弟を置き去りにしたサラの罪深い思いには、驚かせられました。ジュリアがやっとの思いで出会うサラの息子は、自分がユダヤ人の息子であることすら知らさせていないほど、かつての迫害を警戒していたようです。警戒心と贖罪の思いゆえに、 母の愛を感じずに育ってしまった息子が、真実を知ったときの驚きようが感動的でした。必至に守ろうとしたことがわかったのですね。
 しかし、贖罪の思いはサラを悲劇的結末に追いやります。しかし、ここで描かれるのはユダヤ人女性の悲運な生涯だけではなかったのでした。たとえサラが死を迎えようとも、命というものは形を変えて連綿と続いていくことになるのです。ジュリアがどんな形でそれを受け止めて、いのちを紡いでいこうとしたのか。ちょっとフェイントを効かした小憎い演出が、感動のラストに繋がります。
 その命の連鎖、生命の尊厳こそサラが我々に遺のこしたメッセージではないでしょうか。
 この手の作品としては、映像も暗くならずなかなか綺麗でした。

流山の小地蔵