サンザシの樹の下で : 映画評論・批評
2011年7月5日更新
2011年7月9日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
走る姿は2代目チャン・ツィイー。チャン・イーモウが探し当てた美少女
チャン・イーモウ映画の新たなヒロイン、チョウ・ドンユィがお下げ髪を揺らしながら初恋の相手目指して一目散に走る姿に心を打たれた。「初恋のきた道」で必死に料理を運んだ村の少女チャン・ツィイーのごとく、可憐で、健気で、無垢な姿に性格以上のものが現れていたからだ。
物語自体は日本の純愛ドラマか韓流メロドラマかと見まがうばかりのお涙頂戴もので、気恥ずかしささえ感じるラブストーリーだ。時代は、中国の歴史的汚点ともされる文化大革命(1966~76)まっただ中。町の高校生であるヒロインは農村実習で出会った年上の青年と運命的な恋におち、人目を忍ぶ「許されない恋」をする。だが、時代の嵐がふたりを引き裂く。
チャン監督はふたりの恋愛模様を、露骨な視線の交わりや口づけといった直接的な描写ではなく、大きなオーバーコートにふたりでくるまって温まったり、自転車にふたり乗りしたりという官能性を極力排したデリケートな方法で表現。この距離感が実に映画的だ。まるでヒロインが静かに目を閉じて、自分の指や肌に触れた男の指のぬくもりを思い出すような、女性らしい生理的な震えの記憶になっている。
中国の美しい大自然もいい。万年筆「英雄」、白い洗面器(サンザシの絵付き)、ふたりの記念写真といった小道具も効いている。だが、本作の最大のスペクタクルは、恋の記憶の語り部となるチョウ・ドンユィの笑顔と涙だろう。こんな清潔感がある顔を、よくぞ探し出したものだ。
(サトウムツオ)