劇場公開日 2012年3月1日

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「人間賛歌と映画愛に包まれた監督からのメッセージに感動しました。」ヒューゴの不思議な発明 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間賛歌と映画愛に包まれた監督からのメッセージに感動しました。

2012年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 全編を通じて人間賛歌と映画愛に包まれた監督からのメッセージに感動しました。とても丁寧に登場人物の感情を紡ぎ上げていくリズム感は、CGアクションのスピーディーな展開に慣れっこになっている若い観客には、少々かったるいかも知れません。しかし、主人公の少年ヒューゴや彼が助けることになる伝説の映画監督ジョルジュのキャラクターを魂を吹き込む如く、きめ細かく作り込込むためには、ワンシーンごとの状況や心理を丁寧に暗示させる必要があったのではないかと思います。

 父親を失った少年ヒューゴが、亡き父から受け継いだ機械人形を動かすためのカギを探して、人形の復元に情熱を注ぐ様は、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』に似ています。そして人形の修理が進むなかで、浮上していくのが忘れられた映画人ジョルジュの作品との出会い。
 本作が俄然面白くなっていくのは、ジョルジュの存在がネタバレされていくとき。実は、ジョルジュは実名の存在で、彼の半生をかなり正確に本作では描かれていきます。ストーリーのある映画の祖で、特撮の祖でもあるのだけれど、なぜか著名な存在とはなりませんでした。本作で描かれているとおり「月世界旅行」などの傑作を生んだが、晩年は破産し、駅構内でオモチャを売って暮らしたというのです。
 そんなジョルジュの作品を、何とか復権させようというスコセッシ監督の意図が強く感じられました。原始的なトリックを使った草創期の映画作りの様子や、「月世界旅行」の一場面が再現され、ラストには大観衆を集めて、復刻版の上映会が開催されます。
 そこで挨拶するジョルジュの姿に、涙を禁じ得ませんでした。なんて強い映画への愛なんだろうと。奇しくも本年のアカデミー賞は、映画愛の表明した二作品の競作となりました。作品賞を受賞した「アーティスト」は、アメリカ無声映画時代への賛歌であったのに対し、本作はリュミエール兄弟から続く映画黎明期のフランス映画への敬意を払った作品です。

 SFぽい展開や、ファンタジーとしても意外とあっらかんとヒューゴの冒険はネタバレされるので、そういう期待感で見ている観客には肩すかしを食らうでしょう。
 それでも感動するのは、完成度が高いヒューマンドラマとしてです。ヒューゴが動かしている古い駅の時計台の時計では、無数の歯車がうごめいているところが映し出されます。そして、古いとはいえこの大きな時計が、街の人の生活の一部となり街を動かしている様も描かれます。スコセッシ監督がヒューゴに与えたミッションは、単に時計を動かすことだけでなく、何一つとして無駄な部品、無駄な存在はないのだということを観客に明かしていくことではないでしょうか。
 それはラストに象徴的に描かれます。いつもヒューゴにとって、捕まると孤児院送りとなる脅威だった駅の保安員ですらも、ヒューゴのピンチをすくう重要な役回りを演じます。そんな意外性のなかにも、無駄な存在はないというスコセッシ監督からの強いメッセージを感じました。
 一見馬鹿丁寧に進むショットのなかにも、不要なショットはないのだといったところでしょうか。

 さて、本作で議論が分かれるのは2Dで充分か、やはり3Dで見るべきかということでしょう。実は他の作品に比べて微妙なんです。もちろんスコセッシ監督ならではこだわりがあって、3Dの効果を存分に生かした奥行き感のあるカメラワークなど随所に感じるところはあります。ただ他の3D作品に比べると地味なんですね。オープニングでは、初めて蒸気機関車が動く映像を見て人々が驚いたように、「人々が映画を初めて見たときの感動」を感じることはできました。しかし、その後のドラマの展開は、冒頭の驚きをかき消してしまうほど、敢えて3Dにしなくても済むシーンが続いてしまうことです。だからといって、本作の作品価値が下がるわけではありません。

 最後にヒューゴが手にした機械人形のカギは、今や皆さんの手の内にあります。ぜひヒューゴたちが味わった感動を共有できたらいいなあと思います。

流山の小地蔵